私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「須藤課長っ、須藤課長!」

 いろんなことがショックで、震える体を意識しながらなんとか起き上がり、手すりにつかまって階段を下りる。仰向けで横たわる須藤課長の傍らに急いで駆け寄った。額から血が出ていたので、ポケットからハンカチを取り出して、優しく当ててあげる。

(確か頭を打ってるときには、揺さぶっちゃいけないはず。とりあえず声をかけてみよう)

「須藤課長、しっかりしてください。須藤課長!」

 手を握りしめながら、何度も声をかけたのに、ピクリとも動かない。

「なんやこの惨状!? この女は誰や? 須藤課長はここから落ちたんか?」

 猿渡さんが踊り場で私たちを見るなり、大きな声をあげながら階段を駆け下りた。

「片桐先輩が私をあそこから突き落とそうとしたのを、須藤課長が助けてくれて……」

「違う! 絶対に違う! 雛川さんが須藤課長を、ここから突き落としたの! 私、見ていたんだから」

「そんなん今はどうでもいい! 救急車呼ばな!」

 猿渡さんは他にも喚き立てる片桐先輩をスルーして、スマホで救急車を呼んでくれた。その間も私は須藤課長の意識を取り戻すべく、呼びかけを続ける。

「須藤課長、須藤課長大丈夫ですか? すっ、充明くん目を開けてくださいっ」

 すると握りしめる須藤課長の手に、力が僅かに入った。

「充明くん!?」

「愛衣、さん……ケガ、してな、いか?」

「してません。須藤課長が庇ってくれたおかげで、どこもケガしてな……いっ」

 額に当てたハンカチに、どんどん血が染みていく。痛々しいその姿に、涙が自然と溢れてしまった。

「よかった……。君が無事なら、俺はどうなったってぃい」

「よくない! 私のせいで、須藤課長をキズものにしちゃったじゃないですか。責任とらないといけない。ううっ!」

「ハハッ、キズものか。少しは箔がついて、愛衣さんが好きになってくれる男に、近づくことが……でき」

 最後まで言い終えずに、ふたたび意識を失った須藤課長。顔色がどんどん悪くなるのを目の当たりにするせいで、取り乱しそうになる。

「充明くん目を開けて! お願いっ、須藤課長!」

 私の呼びかけにまったく応じなくなった須藤課長は、そのまま救急搬送され、近くの病院で手当を受けることになったのだった。
< 56 / 114 >

この作品をシェア

pagetop