私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
***
須藤課長が治療を受けている間、処置室の前に設置されている椅子に、猿渡さんと並んで待つ。
「僕のせいや。須藤課長にヒツジちゃんのこと頼まれたのに、高藤の追求に夢中になったせいで……」
「私だって猿渡さんになにも言わずに、こっそり部署を出たのがいけなかったんです」
私が後悔を口にしたら、猿渡さんは手に持っていたスマホに視線を落とした。
「松本っちゃんからの連絡。さっき警察が来て、片桐って女を逮捕したって。本人は違う言い張っとったんだけど、ウチらがこっそりつけた防犯カメラが、逮捕の決め手になったそうや」
「片桐先輩、須藤課長が好きだって言ってました。私が須藤課長の傍にいるのが、すごく嫌だったらしくて」
「うまいこと、トカゲの尻尾切りさせられたっちゅーわけや。上の誰かに唆されて、やったことだと思うわ」
なにがなんでも徹底的に、経営戦略部に打撃を与えようとする対抗派閥のやり口に、心底ゾッとした。
「松本っちゃんが防犯カメラの内容を教えてくれたんやけど、ヒツジちゃんを守ろうと須藤課長が落ちかける瞬間に、片桐って女を押して、なんとかしようとしたんやな?」
「はい。一瞬の出来事だったんですが、須藤課長の行動が見えました」
床に倒れた私から、片桐先輩を遠ざけようとしたことがわかったおかげで、あのとき余計に涙が出てしまった。
「ホンマにすごいわ、須藤課長。好きな女を絶対に守る気持ち、ヒツジちゃん考えてやって。今どきこんな男はいないで」
「そうですね……」
不器用で純情で、変なところに手のかかる人――いいところも悪いところもひっくるめて、ちゃんと向き合ってあげたいと思った。
「患者さんのご家族の方は、いらっしゃいますか?」
処置室から顔を覗かせた看護師さんに、猿渡さんが小さく手をあげる。
「すんません。須藤課長のご両親は海外にいるので、すぐにここに駆けつけることができないんですわ。実家の連絡先を聞いているので、スマホに向かって病状教えてくれませんか?」
猿渡さんが須藤課長の実家を知っていることに驚いてる間に、ぽつんとひとり取り残された。
(――須藤課長のご両親が海外にいるって、お仕事の関係なのかな?)
さっきのことや、これからのことを考えかけた矢先だった。目の前の扉が勢いよく開き、猿渡さんが血相を変えた顔で私を見つめる。
「ヒツジちゃん、心の準備して入って来てくれるか?」
「心の準備?」
「お医者さんのいる前で、思ったことを口にしてほしいんや」
猿渡さんの様子や心の準備という言葉で、非常事態が起きたのがわかった。改めて気を引きしめて、処置室に足を踏み入れる。
狭いスペースにベッドがひとつだけ隅に置かれていて、包帯を頭に巻いた須藤課長が起き上がっていた。
「須藤課長、大丈夫ですか?」
意識を取り戻していることにほっとしながら話しかけたら、何度か瞬きして嬉しげに瞳を細める。
「雛川さん、ありがとうございます。お医者さんがしっかり治療してくださったので、もう大丈夫です」
「…………」
「君はケガをしませんでしたか? もしどこか痛むところがあれば、診てもらったらいいですよ」
私を見つめる瞳が、いつもとなにか違って見えるのは、気のせいなんかじゃない。須藤課長がかけてくれた言葉が、なぜか胸に突き刺さった。
須藤課長が治療を受けている間、処置室の前に設置されている椅子に、猿渡さんと並んで待つ。
「僕のせいや。須藤課長にヒツジちゃんのこと頼まれたのに、高藤の追求に夢中になったせいで……」
「私だって猿渡さんになにも言わずに、こっそり部署を出たのがいけなかったんです」
私が後悔を口にしたら、猿渡さんは手に持っていたスマホに視線を落とした。
「松本っちゃんからの連絡。さっき警察が来て、片桐って女を逮捕したって。本人は違う言い張っとったんだけど、ウチらがこっそりつけた防犯カメラが、逮捕の決め手になったそうや」
「片桐先輩、須藤課長が好きだって言ってました。私が須藤課長の傍にいるのが、すごく嫌だったらしくて」
「うまいこと、トカゲの尻尾切りさせられたっちゅーわけや。上の誰かに唆されて、やったことだと思うわ」
なにがなんでも徹底的に、経営戦略部に打撃を与えようとする対抗派閥のやり口に、心底ゾッとした。
「松本っちゃんが防犯カメラの内容を教えてくれたんやけど、ヒツジちゃんを守ろうと須藤課長が落ちかける瞬間に、片桐って女を押して、なんとかしようとしたんやな?」
「はい。一瞬の出来事だったんですが、須藤課長の行動が見えました」
床に倒れた私から、片桐先輩を遠ざけようとしたことがわかったおかげで、あのとき余計に涙が出てしまった。
「ホンマにすごいわ、須藤課長。好きな女を絶対に守る気持ち、ヒツジちゃん考えてやって。今どきこんな男はいないで」
「そうですね……」
不器用で純情で、変なところに手のかかる人――いいところも悪いところもひっくるめて、ちゃんと向き合ってあげたいと思った。
「患者さんのご家族の方は、いらっしゃいますか?」
処置室から顔を覗かせた看護師さんに、猿渡さんが小さく手をあげる。
「すんません。須藤課長のご両親は海外にいるので、すぐにここに駆けつけることができないんですわ。実家の連絡先を聞いているので、スマホに向かって病状教えてくれませんか?」
猿渡さんが須藤課長の実家を知っていることに驚いてる間に、ぽつんとひとり取り残された。
(――須藤課長のご両親が海外にいるって、お仕事の関係なのかな?)
さっきのことや、これからのことを考えかけた矢先だった。目の前の扉が勢いよく開き、猿渡さんが血相を変えた顔で私を見つめる。
「ヒツジちゃん、心の準備して入って来てくれるか?」
「心の準備?」
「お医者さんのいる前で、思ったことを口にしてほしいんや」
猿渡さんの様子や心の準備という言葉で、非常事態が起きたのがわかった。改めて気を引きしめて、処置室に足を踏み入れる。
狭いスペースにベッドがひとつだけ隅に置かれていて、包帯を頭に巻いた須藤課長が起き上がっていた。
「須藤課長、大丈夫ですか?」
意識を取り戻していることにほっとしながら話しかけたら、何度か瞬きして嬉しげに瞳を細める。
「雛川さん、ありがとうございます。お医者さんがしっかり治療してくださったので、もう大丈夫です」
「…………」
「君はケガをしませんでしたか? もしどこか痛むところがあれば、診てもらったらいいですよ」
私を見つめる瞳が、いつもとなにか違って見えるのは、気のせいなんかじゃない。須藤課長がかけてくれた言葉が、なぜか胸に突き刺さった。