私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「須藤課長?」
「既視感がありました。その言葉を聞いて、痛いくらいに胸がドキドキしたことがあったような気がします。普段自分が使ってる言葉なのに、雛川さんが使うのを聞いて……。理由はわかってます」
そう言って、ネクタイごと胸元を握りしめた。
「雛川さんを特別視するような感情を抱いているのをまとめた、メモのようなものを自宅で見つけました。俺は君の上司という立場なのに」
松本さんには朝の時点で口止めされていたけど、苦しそうにしている姿を目の当たりにして、隠し通すことなんてできないと思った。
「わんにゃん共和国がきっかけなんですよ」
「みーたんが?」
私との馴れ初めは忘れているのに、みーたんのことをしっかり覚えていることに、ちょっとだけ妬けてしまった。
「私は覚えてないんですけど、須藤課長とこうして並んでお昼を食べたことがあったそうです。私が向かい側にいる同僚に、わんにゃん共和国のことを喋っているのを傍で見ていて、興味を抱いたことを聞きました」
「俺がわんにゃん共和国をはじめた理由、聞いてますか?」
私が首を横に振ったら、ちょっとだけ微笑んで、お弁当箱の中にある卵焼きを箸で突っつく。
「弟の子どもがやりたいって、俺のスマホに勝手にインストールしたのがきっかけなんです。みーたんなんて俺の名前からとったりして、すごく楽しそうにプレイしている姪っ子を見ていたら、アンインストールできませんでした」
「充明くんだからみーたん……。さすがに須藤課長を、みーたん呼びはできないかも」
模擬デートのときに、須藤課長の呼び名に『みーたん』をちゃっかり提案したことを思い出す。
「どうして年上の俺が雛川さんに君付けで呼ばれているのか、わからないんですが?」
「模擬デートでは私が指南役だったので、そうなっただけです」
「そうですか。しっかりした雛川さんが指南役なら、安心してデートができたんでしょうね……」
まぶたを伏せながら言って、お弁当の中身を急いでかき込む須藤課長に、私の食べるペースも自然と上がってしまった。話が盛り上がるわけじゃなく、淡々と会話をしているだけ。ただそれだけなのに、いつも以上に会話が弾んでいた。
「雛川さんが食べ終わってからでいいので、ここから移動しましょう。話があります」
「わかりました。ちなみにどこで話をするんですか?」
横目でチラッと経営戦略部のメンバーがいる席に、視線を飛ばした。私の視線に気づかずに、彼らはなにかを熱心に話し合いをしているらしく、こちらに意識を向けている様子がなかった。
「残り時間が15分弱しかありませんので、近い場所に移動します」
社食は最上階にあるので、ここから近い場所と言えば、ひとつしかない。
「屋上ですか?」
残っていた最後のおかずを口の中に放り込み、思いついたことを言ってみる。
「はい。今日は天気もいいので、きっといい眺めが拝めると思うんです」
食べ終えたお弁当箱を手にした須藤課長が、私の食べ終えたトレーまで持って、さっさと社食を出て行こうとする。
「それくらい自分でやります」
「俺にやらせてください。してあげたいんです」
しんみり寂しそうに言われたせいで、それ以上拒否することもできず、私は黙ったまま、須藤課長のあとをついて行くしかなかった。
「既視感がありました。その言葉を聞いて、痛いくらいに胸がドキドキしたことがあったような気がします。普段自分が使ってる言葉なのに、雛川さんが使うのを聞いて……。理由はわかってます」
そう言って、ネクタイごと胸元を握りしめた。
「雛川さんを特別視するような感情を抱いているのをまとめた、メモのようなものを自宅で見つけました。俺は君の上司という立場なのに」
松本さんには朝の時点で口止めされていたけど、苦しそうにしている姿を目の当たりにして、隠し通すことなんてできないと思った。
「わんにゃん共和国がきっかけなんですよ」
「みーたんが?」
私との馴れ初めは忘れているのに、みーたんのことをしっかり覚えていることに、ちょっとだけ妬けてしまった。
「私は覚えてないんですけど、須藤課長とこうして並んでお昼を食べたことがあったそうです。私が向かい側にいる同僚に、わんにゃん共和国のことを喋っているのを傍で見ていて、興味を抱いたことを聞きました」
「俺がわんにゃん共和国をはじめた理由、聞いてますか?」
私が首を横に振ったら、ちょっとだけ微笑んで、お弁当箱の中にある卵焼きを箸で突っつく。
「弟の子どもがやりたいって、俺のスマホに勝手にインストールしたのがきっかけなんです。みーたんなんて俺の名前からとったりして、すごく楽しそうにプレイしている姪っ子を見ていたら、アンインストールできませんでした」
「充明くんだからみーたん……。さすがに須藤課長を、みーたん呼びはできないかも」
模擬デートのときに、須藤課長の呼び名に『みーたん』をちゃっかり提案したことを思い出す。
「どうして年上の俺が雛川さんに君付けで呼ばれているのか、わからないんですが?」
「模擬デートでは私が指南役だったので、そうなっただけです」
「そうですか。しっかりした雛川さんが指南役なら、安心してデートができたんでしょうね……」
まぶたを伏せながら言って、お弁当の中身を急いでかき込む須藤課長に、私の食べるペースも自然と上がってしまった。話が盛り上がるわけじゃなく、淡々と会話をしているだけ。ただそれだけなのに、いつも以上に会話が弾んでいた。
「雛川さんが食べ終わってからでいいので、ここから移動しましょう。話があります」
「わかりました。ちなみにどこで話をするんですか?」
横目でチラッと経営戦略部のメンバーがいる席に、視線を飛ばした。私の視線に気づかずに、彼らはなにかを熱心に話し合いをしているらしく、こちらに意識を向けている様子がなかった。
「残り時間が15分弱しかありませんので、近い場所に移動します」
社食は最上階にあるので、ここから近い場所と言えば、ひとつしかない。
「屋上ですか?」
残っていた最後のおかずを口の中に放り込み、思いついたことを言ってみる。
「はい。今日は天気もいいので、きっといい眺めが拝めると思うんです」
食べ終えたお弁当箱を手にした須藤課長が、私の食べ終えたトレーまで持って、さっさと社食を出て行こうとする。
「それくらい自分でやります」
「俺にやらせてください。してあげたいんです」
しんみり寂しそうに言われたせいで、それ以上拒否することもできず、私は黙ったまま、須藤課長のあとをついて行くしかなかった。