私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
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 私たちを見張るように、社食では遠くから様子を眺めていた経営戦略部のメンバー。彼らのことが気になった私は、途中何度も振り返って確認してみたけれど、どうやら屋上まではついてこなかったらしい。

「残り時間が少ないから、人がいませんね」

 私たちと入れ違いで屋上にいた人たちが出て行ったので、ほぼ誰もいないと思われる。

「俺は雛川さんに告白……してますよね?」

 須藤課長は前を見たまま、フェンスのあるところに向かって、まっすぐ歩いて行く。

「してます。模擬デートの帰り道で……」

 私はその場に立ちつくし、遠くなっていく須藤課長の背中を見つめた。

「山田くんの交際発言で、君は断らなかった。俺と付き合おうと思っていたら、あの時点で山田くんを断るハズ。それをしなかったということは、俺が切られるからでしょうね」

「ちゃんと考えたくて、返事をしなかっただけです」

 私の返答を聞いて、須藤課長は恐るおそる振り返った。まなざしが不安げに揺れ動きながら、私を見つめる。

「須藤課長との模擬デート、結構楽しかったんです」

「それって本当ですか? 嫌われるようなこと、しませんでしたか? 普段の俺の様子を松本くんに見せてもらいましたが、あまりの態度の悪さに、頭を抱えてしまいました」

「ジェットコースターに乗ったときは、最初から最後まで目をつぶったまま我慢していたり、観覧車にいたっては、ずっと震えてました」

 そのときのことを思い出しながらスマホを取り出し、メリーゴーランドで撮影した須藤課長の写真を画面に表示させて、見えるように前に向ける。

「充明くんが私を楽しませようと、一生懸命に頑張ってくれたことが、すごく嬉しかったんです」

「俺はひとりきりで、こんなのに乗ったんですね……」

 スマホの画面を見るために、立ち止まった私に近づいた須藤課長の表情は、驚きに満ち溢れていた。

「このときの須藤課長、白馬の王子さまみたいでしたよ」

「白馬の王子さまなんて、褒めすぎです」

「模擬デート中は、私をリードするためにずっと手を繋いでくれましたし、迷子になった女の子に優しく手を差し伸べて、きちんとあやして迷子センターに連れて行ったり」

「…………」

「ゴーカートで運転する私を、助手席から補助してくれました。あ、行き帰りの車の運転も素敵だった!」

 須藤課長の顔が、みるみるうちに赤く染まる。形のいい眉がへの字になっていて、なんだか今にも泣き出しそうな表情にも見えた。
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