私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
***

 須藤課長と急ぎ足で経営戦略部に戻ったら、山田さんがデスクから腰をあげるなり、私たちにいきなり近づいた。

「須藤課長、副社長からお電話がありました。すぐに副社長室に来るようにとのことです」

「副社長がお呼びって、なにかあったんでしょうか。行ってきます!」

 部署に入ったばかりの大きな体を、その場に立ち止まって見送っていると、山田さんがしんみりした声で告げる。

「須藤課長のその顔、雛川さんとうまいこといったんですね」

 出て行きかけた背中に告げた山田さんのセリフを聞いた途端に、須藤課長は前のめりにすっ転んだ。

「須藤課長っ、大丈夫ですか?」

 見るも無残な姿を目の当たりにしたため慌てて駆け寄り、しゃがんで須藤課長の肩に手を置いたら、額を押さえながらうな垂れる。

(前のめりに転んだことで、もしかしたら顔面を強打したのかもしれない。額のキズが開いてないといいけど)

「おいおい、大丈夫かよ?」

 いつまでたっても立ち上がらないことを不安に思ったのか、松本さんが私と同じように駆け寄り、しゃがみ込んだ。

「えらい派手に転んだから、昨日の打ち身に響いたんとちゃう?」

 猿渡さんが背後から声をかけると、ガタイのいい原尾さんが須藤課長の背中をいきなり抱え込んで、よいしょの掛け声とともに持ちあげた。

「すまない、もう大丈夫です」

 ガーゼを当てている額とは反対側を押さえて、ゆっくりと顔をあげた須藤課長。大丈夫とは言ったものの、その顔色はあまりすぐれないものだった。

「須藤課長が転ぶような衝撃的なことを、言いましたか?」

 山田さんがほかのメンバーに視線を飛ばしながら訊ねたことで、須藤課長だけに問いかけたことじゃないのがわかった。

「なにもないところで転んだもんな。須藤課長の中では、相当衝撃的だったんじゃないのか?」

 しゃがんでいた松本さんが立ち上がり、意味深な視線を猿渡さんの後ろにいる高藤さんに飛ばした。

「今からこんなところで転んでいたら、ベッドの中で使いたいときに使えなくなりますね。まあベッド限定じゃないかもですけど」

 高藤さんは須藤課長の無事を確かめるように、ぎゅっと抱きつく。

「高藤、くん、俺は大丈夫だから」

「それでヒツジちゃんとは、実際のところどうなんです?」
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