私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「俺は高価なものの器物破損だと思う。営業部ケチくさいから、ちょっとなにかを壊しただけで、すっげぇうるさいし」

 松本さんは盗聴盗撮するのに、営業部のなにかを壊したことがあるんだろうか。

「それで今度は、須藤課長とオフィスラブしようと思ってる? きっと手玉にとるのは簡単だと思うよ。入社してからまったく、そういった噂を聞いたことないし。だよな松本?」

 チャラい高藤さんが松本さんに問いかけた。猿渡さんからもたらされた情報で機嫌が悪くなっていたのに、松本さんの質問で朗らかに微笑む。

「一応直属の上司だから、すべての調べはついてる。ああいうキツい性格だし、女は寄りつかないだろ。童貞なんじゃねぇの?」

「しかも夢中になってるんは、女じゃなくアレやしねぇ。二次元の美少女キャラや、幼女趣味じゃないだけ、まだマシなのかもしれへんけど」

「実は、この話は実話なんだよ。ってヒツジちゃんの目が怖い~。この壊れたバインダーは、どうすればイインダー?」

 猿渡さんが言った『アレ』が気になったのに、下ネタを封印してオヤジギャグに走った原尾さんが、壊れたバインダーを見せながらゲラゲラひとりで大笑いする。

「とりあえず須藤課長が戻るまでに、各人ノルマをこなさないとどやされますよ」

 原尾さんの笑いを止めるためなのか、大きな声で山田さんが提案した。

「あの、須藤課長が会議に出席したのって――」

「なんも知らんのは当然やね。ヒツジちゃん今日来たばかりやし。松本っちゃん、教えてやって」

 言いながら猿渡さんが松本さんを名指ししたら、大きなため息をはいた。

「俺はこの会社のすべてに、盗聴器を仕掛けてる。映像については、各階に設置された防犯カメラをジャックする形で盗撮しているんだけど」

「なるほど、すごいですね」

 思いっきり犯罪行為をしているけど、これからここでやっていく手前、一応褒めることにした。

「あちこちの部署の仕事の下請けをしてる関係で、ミスを発見することがあるんだ。小さなものは訂正を指摘してやり直しして貰うんだけど、ヤバそうなものはあえて見過ごして、須藤課長の頭脳と弁舌を振って、おおやけでお披露目することにしてるんだ。さっきのように」

「会議でミスをお披露目したら、その部署に恨まれるんじゃないんですか?」

 須藤課長の見せた嫌なしたり笑いの意味が、今さらわかってしまった。
< 7 / 114 >

この作品をシェア

pagetop