私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「ほんで高藤、このまま諦めるん?」

「諦めるもなにも騙された以上は、黙って手を引いたほうがいいに決まってます」

 椅子の背に体重をかけたまま、つらそうに天井を仰ぎ見る高藤さんの姿に、頑張れなんて安易に声をかけられない気がした。

「おまえらしくないな。半年もお預けくらってて、やり返したい気持ちはないのかよ。好きだったんだろ?」

「松本さん……」

「僕としても高藤に手を貸してやりたいけど、圧倒的に足りないもんがあるねん。そこをいつも、須藤課長が補ってくれたんやけど――」

 言いながら私をじっと見る猿渡さんの意味深な視線に、首を傾げるしかない。

「俺、須藤課長を元に戻す方法わかルンバ!」

「実は俺も、須藤課長と直接やり合って、なんとなくわかりました」

 原尾さんと山田さんまでもが、私をまじまじと見つめる。

「ヒツジ、存亡の危機を救えるのは、おまえだけだ。やってしまえ!」

 今度は松本さんが私に指を差しながら、わけのわからないことを命令した。

「こればっかりは、僕らはどうすることもできないしね」

 天井を見ていた高藤さんも、色っぽい視線を私に注いだ。

「せやな。経営戦略部を救うと思って、須藤課長の童貞を絶対に奪ってやって♡‬」

「はぁああ?」

 トドメを刺した猿渡さんのセリフに、思いっきり変な声を出してしまった。

「ヒツジ、別に問題ないだろ。恋人同士なんだから」

「だだ、だってまだ付き合うことになって、一日も経ってないのに、いきなりそんなことできませんよ……」

 相変わらず私に指を差したままの松本さんに、正論をぶつけてみたけれど、まったく聞いていない顔をされてしまった。

「ヒツジちゃんに童貞を捧げたことにより、もしかしたら須藤課長がパワーアップするかもしれなインコ」

「パワハラがパワーアップしないことを祈るばかりですけどね」

(原尾さんと山田さんの会話が、かわいく思えてしまうのはどうしてだろう……)

「須藤課長には、アッチの誘い方を伝授してはいるのですが、完全に記憶が戻ってる感じでもないですしね。ここはヒツジちゃんがベッドに誘ったほうが、スムーズに奪えると思います」

「高藤さん、無理を言わないでくださいっ!」

「ええか、よぉ聞き。須藤課長がまたケガをしたら、今度はどうなるか考えみ?」

 猿渡さんが私の耳元で、空恐ろしいことを口にした。

「ヒッ!」

「完全復活すれば、そないな心配せんでも済むんやで。悪い話やないと思うけどなー」

 こうしてうまいこと皆に丸め込まれた私は、須藤課長の童貞奪取作戦に、強制的に加わることになってしまったのである。
< 70 / 114 >

この作品をシェア

pagetop