私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「猿渡くん、なにが違うんですか?」
ワントーン声を低くして、言葉に重みをもたせながら問いかけると、猿渡があからさまに困った顔をした。いつもならウザいと思える関西弁でベラベラ喋るのに、硬い表情のまま押し黙る。
妙な沈黙を破ったのは、松本だった。
「へぇ。記憶ないバージョンもそれなりに凄みがあって、いい感じじゃね?」
「松本っちゃん、のんきなこと言ってないで僕を助けて」
猿渡が天敵の松本に助けを求めるなんて、いがみ合うふたりを見ていたからこそ意外だった。そんなに今の俺のセリフに、怯えさせるなにかがあったというのだろうか。
考えながら腕の力を入れた瞬間、愛衣さんの柔らかな感触を体で察知したせいで、勢いよく放り出してしまった。
「済まない、病み上がりでいろんなことが追いついてなくて!」
「いえ、大丈夫です。気にしないでください……」
手荒に放り出してしまったというのに、愛衣さんは笑顔で優しく対応する。マジで女神に見えてしまうくらいに、笑みに神々しさが溢れていた。
(ああ、こうしてずっと、愛衣さんの微笑みを眺めていたい――って違う違う!)
一旦落ち着くために咳払いをし、あらかじめ考えていたことを口にする。
「副社長にも帰れと言われたので、今日はこのまま帰ります。皆さんすみません! 明日はいつもどおり出勤しますので、留守の間よろしくお願い致します」
深々と頭を下げたら、誰かが歩み寄ってきた。確認すべく顔を上げると、原尾が心配そうに俺を見上げる。
「須藤課長は、本調子じゃないですヨット。だからヒツジちゃんが一緒に帰ルンバ」
「はい?」
意味がよくわからなくて首を傾げると、高藤が自分のデスクで頬杖をつきながら説明する。
「須藤課長の体調が途中で悪くなっても困るでしょうから、ヒツジちゃんに同伴してもらって、帰ったらいいですよってことです。僕らにとっても、須藤課長のお体は大切ですからね。それに、明日休まれても困りますし」
「そうやで。頼むからワガママ言わんと、ヒツジちゃんと帰ってや!」
「須藤課長のため、雛川さんが帰ってしまうのは寂しいですが、しょうがないですよね」
という愛衣さんと帰れコールを、皆にされてしまったのだが、本当に一緒に帰っていいのだろうか――。
「私も心配なので、須藤課長と一緒に帰りたいです」
可愛らしく目の下を赤く染めて告げられた時点で、断るなんてできるはずもなく、ふたりして有給をとって、仲良く帰ることになってしまったのだった。
ワントーン声を低くして、言葉に重みをもたせながら問いかけると、猿渡があからさまに困った顔をした。いつもならウザいと思える関西弁でベラベラ喋るのに、硬い表情のまま押し黙る。
妙な沈黙を破ったのは、松本だった。
「へぇ。記憶ないバージョンもそれなりに凄みがあって、いい感じじゃね?」
「松本っちゃん、のんきなこと言ってないで僕を助けて」
猿渡が天敵の松本に助けを求めるなんて、いがみ合うふたりを見ていたからこそ意外だった。そんなに今の俺のセリフに、怯えさせるなにかがあったというのだろうか。
考えながら腕の力を入れた瞬間、愛衣さんの柔らかな感触を体で察知したせいで、勢いよく放り出してしまった。
「済まない、病み上がりでいろんなことが追いついてなくて!」
「いえ、大丈夫です。気にしないでください……」
手荒に放り出してしまったというのに、愛衣さんは笑顔で優しく対応する。マジで女神に見えてしまうくらいに、笑みに神々しさが溢れていた。
(ああ、こうしてずっと、愛衣さんの微笑みを眺めていたい――って違う違う!)
一旦落ち着くために咳払いをし、あらかじめ考えていたことを口にする。
「副社長にも帰れと言われたので、今日はこのまま帰ります。皆さんすみません! 明日はいつもどおり出勤しますので、留守の間よろしくお願い致します」
深々と頭を下げたら、誰かが歩み寄ってきた。確認すべく顔を上げると、原尾が心配そうに俺を見上げる。
「須藤課長は、本調子じゃないですヨット。だからヒツジちゃんが一緒に帰ルンバ」
「はい?」
意味がよくわからなくて首を傾げると、高藤が自分のデスクで頬杖をつきながら説明する。
「須藤課長の体調が途中で悪くなっても困るでしょうから、ヒツジちゃんに同伴してもらって、帰ったらいいですよってことです。僕らにとっても、須藤課長のお体は大切ですからね。それに、明日休まれても困りますし」
「そうやで。頼むからワガママ言わんと、ヒツジちゃんと帰ってや!」
「須藤課長のため、雛川さんが帰ってしまうのは寂しいですが、しょうがないですよね」
という愛衣さんと帰れコールを、皆にされてしまったのだが、本当に一緒に帰っていいのだろうか――。
「私も心配なので、須藤課長と一緒に帰りたいです」
可愛らしく目の下を赤く染めて告げられた時点で、断るなんてできるはずもなく、ふたりして有給をとって、仲良く帰ることになってしまったのだった。