私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
 みーたんを股に挟んだままなので、体を回転させることができない。首に力を入れて振り返ろうと試みても、須藤課長の手がそれをしっかり阻止した。

「充明くん、いつかは見せることになるんですから、とっとと諦めて、今見せてくださいよー!」

「愛衣さん気づいてないですよね、俺のがどうなっているのか!」

「へっ?」

 須藤課長のセリフで呆けた声を出したものの、どうにも理解が追いつかなくて、振り向こうとしていた力が抜けてしまった。

「愛衣さんがそうやって、下半身に集中して力を入れるから――」

「違います、狙ってませんって、本当に!」

 耳元で囁かれた言葉がきっかけで、意識をそこに持っていったら、みーたんが復活していることに驚かないほうがおかしい。この短時間で、なんで元気になるのか不思議なんですけど!

「愛衣さんの入口が俺のを欲しがって、ずっとビクビクしていたのはわかってますが、今日はできませんからね」

「できないことくらいわかってますっ! もうなにもしないつもりですから!」

 須藤課長を欲していたことがバレて、頭の中がプチパニックに陥った。振り向きかけた顔を俯かせて、表情を見えないようにする。恥ずかしすぎて、どうにも顔をあげられそうにない。

「愛衣さんからは、なにもしないんですか。それじゃあ俺が思いっきり――」

 そこで言葉を切った須藤課長。私の耳朶をちゅっと口に含んで、舐るように感じさせる。

「ひゃっ!」

「俺なりの方法で、愛衣さんを愛してあげる。君が俺を忘れないように、心にしっかり痕をつける」

「須藤課長?」

 いつもより艶っぽい声のせいか、告げられた言葉が胸の奥に、じわじわと染みこんだ。

「俺は何度でも君に恋をする。この間のように忘れたとしても、間違いなく愛衣さんを好きになることを誓う。だから俺を好きになって……」

 甘えるような口調が、私の気持ちを動かした。体を動かすことができなかったけれど、私を抱きしめる須藤課長の両腕に手を添える。

「わかりました。充明くんの想いを受け止めることを誓います」

「愛衣さん、こっちを向いて」

 言われたとおりに振り向くと、須藤課長の長い前髪がおでこにかかった。一気に近づいた距離に、ドキドキしない彼女はいないだろうな。

「愛衣さん、好きです。誓ってくれてありがとう」

 震える言葉を告げた唇が、私の唇にしっとり重なった。今までで一番神聖なキスは、世界で一番優しくてあったかいくちづけだと思ったのは、きっと間違いじゃない。

 キスを交わした後で、須藤課長と視線を合わせたときに、じんわりとしたしあわせをしみじみと感じることができたから。
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