私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「ちなみに俺は、普通サイズだから安心して。雛川さんさえよければ、いつでもOKだよ」

「いつでもOKって――」

「挿れてないなら、欲求不満がたまってるんじゃない? 気持ちよくしてあげるけど」

 耳元に寄せられた山田さんの吐息で、ゾワッとしたものを感じた。

「欲求不満なんて、そんなのないです!」

 さりげなく横にズラした体を、今度は大きくズラす。あからさまな態度をとっているというのに、山田さんはどこか嬉しげに瞳を細めて、離れた私のことを舐めるようにしげしげと眺め倒す。

「またまたぁ。そうやって清純ぶって、須藤課長にお預け食らわしたんだ。結構やるね」

 山田さんは弾んだ声で言いながら、腕を伸ばして、私の腰に手をまわした。ズラした分を引き寄せるような力を感じたので、足を踏ん張りながら抵抗を試みる。

「やめっ!」

 私が山田さんに反論する前に、バシッとなにかを強く叩く音が給湯室に響いた。

「彼女に手を出すなんて、随分と余裕があるみたいだな」

 腰に回された山田さんの手が外れたことで、慌てて須藤課長の後ろに逃げ込んだ。

「大事な仕事をほっぽり出して、雛川さんの救出ですか。そちらこそ余裕があるみたいですけど」

 目の前にある大きな背中にそっと手を伸ばして、上着を握りしめる。すると須藤課長の大きな左手が、空いてる私の手を握りしめてくれた。

 あたたかな温もりが私の手を包んだことで、安心感が増していく。

「悪いが俺には、有能な部下が数人いるんでね。俺が出て行っても、きちんと代わりをしてくれてるってわけだ」

 須藤課長は右手をどこかに向かって、ひらひら動かした。

「なるほど。防犯カメラで、ここの状況を見ていたということですね」

 須藤課長の視線の先から防犯カメラの場所がわかったのか、山田さんが設置しているらしいところに指を差した。

「本来なら松本の仕事だが、生憎アイツは留守にしていたからな。偶然、俺がやっていただけだ」

「彼女の前に格好よく登場! って、ありきたりすぎて、雛川さんはときめかないと思います」

「そんなことないです。すっごくときめいています」

 須藤課長の背後から、山田さんに向かって大きな声で発言した。

「愛衣さん、今はそういう感想を言われると、照れてしまいます……」

 須藤課長はちらりと振り返って、私を見下ろした。頬をほんのり染めるその様子に、私まで照れが移ってしまいそうになる。
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