私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
 しかも昨日なんて、挿れることができないというハンデを無にするように、徹底的に私を絶頂させるということをしているのに。

「山田は本気で、人を好きになったことはあるのか?」

「雛川さんをこれからそういう気持ちで、好きになるかもです」

 自信に満ちた快活な言い方をしたというのに、山田さんの目線から嫌な感じか滲み出ているのがわかった。さっきのように須藤課長の後ろに逃げることもできたけれど、あえてその視線を受け続ける。

 逃げなかった私を須藤課長は意味深に見ながら、言葉に熱を込めるように口を開く。

「好きになった人を失いたくない気持ちが、こんなに強くなるということを、俺は知らなかった。だから、愛衣さんが山田にとられたらヤバいって思ったのは事実だ」

「…………」

 凛とした須藤課長の声を聞いているだけで、胸がドキドキした。しかも山田さんに指摘されたことを堂々と肯定しているところも、格好いいと思える。

 須藤課長は絡んでいた私との視線を振り切る感じで、顔をしっかりと前にあげた。

「山田が言ったように、自分の駄目なところを含めて、これからは進んで改善していこうと思う。指摘してくれて助かった。これで彼女を失わなくて済む」

 語尾にいくに従い須藤課長が微笑むと、山田さんが横にある壁を拳で殴った。

「ご自分がなにを言ってるのかわかってますか? なんで俺の意見を取り入れようとするんです。いつものように、反発してくださいよ!」

「反発ばかりしていても、成長しないことを学んだ。受け入れる強さがなければ、守りたいものを守れないから」

「助かったとか学んだなんて、言ってほしくなかった。須藤課長がこれ以上成長しちゃったら、いつまで経っても俺は追いつくことができないじゃないですか」

「もうやめとき。コアに守るものができた人間は、ホンマに厄介やで」

 私たちに声をかけながら、ひょっこり顔を出した猿渡さんに、須藤課長が眉間に皺を寄せながら語りかける。

「監視の仕事を投げ出してきたのか。そんなに時間は経ってないだろ」

「お電話があったので、呼びに来ただけですわ。外線1番佐々木さんからです。ここは僕がなんとかしておきますので、まかせてください」

「わかった。あとは頼んだぞ」

 須藤課長は一瞬だけ私の手を掴んでぎゅっと握りしめてから、素早く身を翻す。寂しく思った私を察してくれたことに、ちょっとだけ嬉しくなった。

「さてと。山田の仕事を、ひとつ取りあげようと思うんやけど、なにを言われるかわかってるやろ?」

「なんのことでしょうか?」

「秘書課のナイスバディな統括と不倫しとることや。社内では一切接触しとらんけど、外で適度な頻度で逢ってるやろ?」
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