私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
(――わざと囮を使って、相手の出方をみていたんだ。須藤課長さすがだな)
「山田が須藤課長に苛立つ気持ちはわかる。以前の僕を見てるみたいやから」
猿渡さんはふーっと大きなため息を吐いてから、腕を組んで壁にもたれかかった。山田さんは相変わらず黙ったまま、その動きを見つめる。
「開発部に所属していたときの僕は、仕事を適当にこなしながら、上司にゴマばかり擦っていてな。そうして嫌われんように気ぃばかり遣って、点数稼ぎに精を出していたんや」
まるで別人のことを喋っているみたいだったので、思わず――。
「猿渡さんらしくない感じですね」
なぁんて言葉が、口を突いて出てしまった。
「ヒツジちゃんもそう思うくらいに、過去の僕は僕らしくなかったっちゅーわけ。そんなある日、狙ってきたのか偶然来たのかわからん須藤課長が、わざわざ僕の傍までやって来て『そんなことして面白いのか?』って訊ねてきたんや」
猿渡さんのセリフに、山田さんが気難しそうに顔を歪ませた。
「仕事のできる須藤課長が、猿渡さんの経歴を知らないハズないですから、偶然現れたなんてことをしませんよ」
山田さんの意見に頷いてしまった。きっと前から猿渡さんに目をつけていて、タイミングよく現れたんじゃないかな。
「経営戦略部という部署の存在自体知らんかったんやから、当然須藤課長も知らんかった僕は『関係ないアンタにとやかく言われる筋合いはない』って、一刀両断したんや。それなのに毎日毎日用もないのに顔を出して、くだらんことばかり僕に話しかけてきてな」
「経営戦略部に来ないかって、すぐに誘われなかったんですか?」
須藤課長の行動を不審に思った山田さんが、疑問をぶつけた。
「部署の名前なんて、全然出さへんかった。無駄に僕に突っかかってくるだけ。仕事で溜まったストレスを、僕相手に発散しとるんじゃないかって思うくらいやった」
「俺のときはすぐ誘ったのに、どうして猿渡さんにはそうしなかったんだろ……」
「須藤課長の不器用さなのか、それとも別の考えがあったのか、未だにわからんことのひとつや」
私の知らない須藤課長の話は、聞いているだけで楽しくてしかたない。だけど私が微笑んだりしたら、この場の雰囲気を悪くすると思い、唇に力を入れて我慢した。
「しかもあれだけしつこく日参しとったのに、いきなり来なくなってな。清々したはずなのに、なんでか気になってしもうて。久しぶりに顔を突き合わせたときに噛みついたら、タイミングよく引き抜かれたんや」
「山田が須藤課長に苛立つ気持ちはわかる。以前の僕を見てるみたいやから」
猿渡さんはふーっと大きなため息を吐いてから、腕を組んで壁にもたれかかった。山田さんは相変わらず黙ったまま、その動きを見つめる。
「開発部に所属していたときの僕は、仕事を適当にこなしながら、上司にゴマばかり擦っていてな。そうして嫌われんように気ぃばかり遣って、点数稼ぎに精を出していたんや」
まるで別人のことを喋っているみたいだったので、思わず――。
「猿渡さんらしくない感じですね」
なぁんて言葉が、口を突いて出てしまった。
「ヒツジちゃんもそう思うくらいに、過去の僕は僕らしくなかったっちゅーわけ。そんなある日、狙ってきたのか偶然来たのかわからん須藤課長が、わざわざ僕の傍までやって来て『そんなことして面白いのか?』って訊ねてきたんや」
猿渡さんのセリフに、山田さんが気難しそうに顔を歪ませた。
「仕事のできる須藤課長が、猿渡さんの経歴を知らないハズないですから、偶然現れたなんてことをしませんよ」
山田さんの意見に頷いてしまった。きっと前から猿渡さんに目をつけていて、タイミングよく現れたんじゃないかな。
「経営戦略部という部署の存在自体知らんかったんやから、当然須藤課長も知らんかった僕は『関係ないアンタにとやかく言われる筋合いはない』って、一刀両断したんや。それなのに毎日毎日用もないのに顔を出して、くだらんことばかり僕に話しかけてきてな」
「経営戦略部に来ないかって、すぐに誘われなかったんですか?」
須藤課長の行動を不審に思った山田さんが、疑問をぶつけた。
「部署の名前なんて、全然出さへんかった。無駄に僕に突っかかってくるだけ。仕事で溜まったストレスを、僕相手に発散しとるんじゃないかって思うくらいやった」
「俺のときはすぐ誘ったのに、どうして猿渡さんにはそうしなかったんだろ……」
「須藤課長の不器用さなのか、それとも別の考えがあったのか、未だにわからんことのひとつや」
私の知らない須藤課長の話は、聞いているだけで楽しくてしかたない。だけど私が微笑んだりしたら、この場の雰囲気を悪くすると思い、唇に力を入れて我慢した。
「しかもあれだけしつこく日参しとったのに、いきなり来なくなってな。清々したはずなのに、なんでか気になってしもうて。久しぶりに顔を突き合わせたときに噛みついたら、タイミングよく引き抜かれたんや」