私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
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 いつもどおりに午前中の仕事を終えて、正午に自作のお弁当を食べた。その後歯磨きしたりお化粧直しをして、まっすぐ部署に戻ろうとしたら、突然目の前でミーティングルームの扉が開き、私の脚を止める。

 あっと思ったときは、扉の閉まる静かな音が耳に聞こえた。室内に引き込んだその人の大きなぬくもりと香りで、誰の仕業なのかすぐにわかってしまう。

「須藤課長、驚かさないでください」

 後ろから私に抱きついた須藤課長に話かけると、耳元に顔を寄せられる。吐息が耳にかかり、思わず体を大きくビクつかせてしまった。

「ここから少しでも動いたら防犯カメラに映るんで、そのままでいてほしい」

(そのままって、本当にそれだけで終われるのかな。カタチの変わった大きなものが、思いっきり私に当たっているのに……)

 抱きつく須藤課長に体重を預けると、体に回された両腕の力が抜けて、優しい抱擁に変わる。苦しくないそれは寂しいものなのに、須藤課長の性格を表している行為を感じとれたおかげで、自然と口角が上がった。

「愛衣さん今朝は、山田になにもされなかった?」

「充明くんがすぐに来てくれたので、なんとか大丈夫でした」

「それはよかった……。数秒おきに切り替わるパソコンのモニターに給湯室の様子が映ったのを、たまたま見つけることができたから、すぐに駆けつけられたんだ」

 須藤課長は安堵のため息をつきながら、私の髪に頬擦りする。体を抱きしめている両腕はどこにもお触りすることなく、そのままだった。

「ごめん。愛衣さんの匂いを嗅いだ瞬間からその……。昨日のことを思い出しちゃって」

「恥ずかしいから、思い出してほしくないのに」

「だって、はじめて愛衣さんに触れたことを思い出さないなんて、そんなの無理な話だ。どこが感じるのか、全部覚えてる」

 言い終えたあとに、耳朶をやんわりと甘噛みする。

「ちょっ!」

「あまり声を出さないでほしい。俺以外にかわいい声を聞かせたくない」

「無理なお願いばかりしないでください。私だって、我慢するのは大変なんですから」

「ほんとに?」

 嬉しそうに訊ねた唇が、耳の縁を確かめるようになぞる。それだけでぞわぞわするというのに、須藤課長は執拗に片耳を責めた。

「充明くん、声出ちゃう」

「我慢してるのは声だけ?」

 掠れた須藤課長の声を聞いただけで、腰から下がどんどん熱くなった。それはきっと、須藤課長の大きなみーたんが押しつけられているせいかもしれない。
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