私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
 パワハラアタックと称したくなるような須藤課長のキツい叱責に、高藤さんは肩を竦めてビビりながら「すみませんでした。今すぐとりかかります」と言って、逃げるように退散する。

 自分のデスクに戻って行く高藤さんを見送る私に、須藤課長がそっと耳打ちした。

「ミーティングルームでの一部始終を見張られていた結果が、この有様なんだ……」

 告げられた意味がわかりかねて小首を傾げると、須藤課長は苦笑しながら私と一緒に、至極真面目に仕事をしている部署の面々を眺める。

「俺たちのことを気にしているのがわかっていたから、それを使って仕事をさせる作戦をたてたんです」

「まさか――」

「君に危険が迫り、俺がケガをするという大きな問題が起きてるのに、慌てる様子もなく、いつもどおりに仕事をしてるのがおかしかったんです」

 須藤課長は吐き捨てる感じで告げて、内なる苦労を吐き出すように大きなため息をつく。パソコンのキーボードの音と比例しない二酸化炭素を吐いた音は、どこか重たさを感じさせた。

「須藤課長、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。だからあえて、防犯カメラの見えないからところでイチャイチャしてみたんですよ。あの状況だと、必然的に音を頼りにするでしょう? 聞き耳を立てると言うべきでしょうか」

「そうですね」

「俺が問題解決するまで、君に手を出さないと聞けば、その間に別れる可能性だって出てくる。しかも禁欲生活という縛りを聞いたなら、そのつらさを知っているゆえに、ヤツらも一生懸命に従事するだろうと、一芝居打ったわけです」

 策士っぽく堂々と胸を張って流暢に説明した須藤課長を、まじまじと見つめてしまった。

「あのとき、そんなことを考えながら、あんなことをしたんですか?」

(うわ~……。結構エッチ系な会話を充明くんと交わしちゃったこと、みんなに聞かれちゃったんだ。あの高藤さんが気を遣って出てくるくらいって、相当だよ)

「ヒツジと楽しくイチャイチャできる上に、部下をうまく動かすことができるという、一石二鳥作戦でした」

 須藤課長は嬉しそうに言いながら、私の頭をくしゃっとひと撫でして、自分のデスクに戻ってしまった。みんなが頑張っている経緯を知り、居ても立っても居られなくなる。

「私、手が空いてるので、なんでもお手伝いします!」

 猿渡さんに負けないくらいの大きな声を出したら、原尾さんが勢いよく挙手した。
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