【女の事件】続黒煙のレクイエム
第6話
アタシが家出をしてから10日目のことであった。

場所は、きよひこが勤務している大船渡市内にあるJFの支所にて…

きよひこは、いつも通りに与えられた仕事をもくもくとこなしていた。

きよひこは、ちづるが暮らしているマンションへ毎朝車で行って、ちづるを車に乗せて職場へ一緒に行くことを繰り返していたので、知らないうちに職場内の雰囲気が悪くなっていることなどおかまいなしになっていた。

きよひこは、ちづるのことが放っておけないから毎朝車で職場とマンションの往復をしている。

女と男の関係の方が強くなっていることをきよひこはわかってへんけん、職場内のOLさんたちからきらわれていた。

正午を知らせるチャイムが鳴った。

職場のOLさんたちは、お昼休みになったので事務所を出た後、にお昼ごはんを食べに行った。

ちづるは、毎日のようにきよひこから『一緒にお昼ごはんを食べようかな…』と優しい声で言われてお昼のお弁当に誘われていた。

いつもだったらお昼ごはんを一緒に食べていたが、この10日前後ちづるはよそよそしい気持ちになっていたので、きよひこと一緒にお昼のお弁当を食べなくなってしまった。

きよひこは、まあそのうちひとりぼっちでお弁当を食べるのがつまらなくなるけん、またちづると一緒にお昼ごはんを食べることができるだろうとノンキにかまえていた。

この時、支所長の吉浜さんはきよひこがちづると仲良くしていることに腹をたてていた。

吉浜さんは、きよひこに腹を立てている一方で毎日がんばって出勤しているので、皆勤賞を与えてあげようかな…と思って、優しく声をかけてみた。

「きよひこさん、一緒にお昼のお弁当を食べましょうか。」
「あっ、はい…もうすぐ午前中のお仕事が終わりますので…」
「そっか…ほな、お弁当の箱を置いておくね。」

吉浜さんは、きよひこのデスクの上にお給料払いで注文をしたお弁当の箱を置いたあと、多少あつかましい口調できよひこに言うた。

「きよひこさん…ちょっとだけでもいいから話を聞いてくれるかな!?」
「あとにしてください!!」
「どうしてなんだね?私は、きよひこさんに大事なお話があるから聞いてほしいと言うているのだよ。」
「大事なお話って、何なのですか!?」
「ちょっと…気になる話があってね…たいしたことじゃないのだけど…」
「たいしたことじゃないのだけど…って…どうしてあつかましい口調で言うのですか!?」
「何でそんなにあつかましい口調で言うのかなァ…私は、きよひこさんに皆勤賞を与えてあげたいと思って、お話しがあるよと言うたのだよ…皆勤賞はいらないのかね…」
「ですから、皆勤賞とはなんでしょうか!?」
「なんでそんな怒った声で言うのかなぁ…ワシはしんどいのだよ…うちの支所に就職をしてから毎日休まずに出勤をしてよくがんばっているから、皆勤賞を与えてあげるよというたら、『ワアーうれしいなァ』とよろこぶのじゃないのかな…」
「ふざけんなよ!!オレとちづるの関係が気に入らないからオレのことを(盛岡の)本部にチクったんだろ!!」
「ちょっと、落ち着いて話を聞いてほしいのだけど、私はちづるさんときよひこさんのことはひとことも言うてないのだよ。」
「ふざけんなよ!!あんたの言う皆勤賞と言うのは、どこかへサセンするぞと言うことなんだろ!!」
「きよひこさん、落ちついて話を聞いてくれるかなァ…きよひこさんに大切な話と言うのは、来年の4月1日付けでうちの支所のきよひこさんのデスクは、岩手県本部に勤務をし来るT田さんに変わるのだよ…T田さんは実家のおとーさんの介護をするためにこっちへ帰ってくるのだよ。」
「用はオレにクビだと言いたいのだろ!!」
「クビとは言っていないよ…場所を変えるだけだよ。」
「どっちだっていいだろ!!オレとT田をはかりにかけてT田がオレよりも仕事ができるからオレはお払い箱だと言いたいのだろ!!そのように言えよボケ支所長!!」
「お払い箱だとは言ってないよ…」
「言うた!!T田のクソ野郎は、えらそうなつらしているインテリだから、ぶっ殺してやる!!オレ、来年の3月31日でJFの職員やめるけん…JFに就職して損したわ(ブツブツ…)」

きよひこは、ますます怒りっぽくなっていたので、吉浜さんはきよひこにこう言うた。

「きよひこさん…ちづるさんはね…私からのすすめで紹介をしたお医者さんと結婚することが決まっているのだよ…きよひこさんはこずえさんと結婚をしたばかりなのに…」
「こずえはオレのことを差別するだけ差別した!!こずえは子供が産めない役立たずだからボコボコに殴って追い出した!!」
「それじゃあどうするのだね…皆勤賞はいらないと言うのかね!?」
「あんたの言う皆勤賞は何のことを言うているのだよ!?要は、オレにJFやめろと言うことなんだろ!!分かったよ!!キレよ…この場でくびキレよ!!早くキレよ!!」

きよひこは、お給料で注文をしましたお弁当をゴミ箱に捨てたあと、吉浜さんに背中を向けてふてくされていた。

それと同時に、ちづるへの思いを強めていた。

ちづるは、きよひこが毎朝マンションに迎えに来てくれること自体をめんどうくさがるようになっていた。

にもかかわらずきよひこは『放っておけない』とか『君を守りたいのだよ』とか『好きなのだよ』とかあいまいな理由ばかりをちづるに言うていたので、ちづるの中でイライラが募っていた。

翌朝のことであった。

きよひこの家の食卓にはきよひこと父親と兄嫁のさよこがいて、いつものように朝ごはんを食べていた。

兄のかつひこは『きよひこが食卓にいるとヘドが出る!!』と父親に怒鳴りつけて、こぶしをふりあげてイカクしたあと、朝ごはんを食べずに家を出ていった。

さよこは、きよひこが時計をながめながらソワソワとしていたので、どうしたのかなと思って優しく声をかけてみた。

「きよひこさん…どうしたのかな?」
「えっ?」
「この頃、ソワソワとした表情になっているから気になる人でもいるのかなと思っていたのよ…」
「何でそんなことを義姉(ねえ)さんが聞いてくるのだよ!?」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないのよ…家族だから心配になって聞いただけなのに…」
「何なのだよその言い方は!!オレを小バカにしているのか!?」
「してないわよ…ああ…そんなことよりも…吉浜さんから話を聞いていないかなぁ…」
「何を聞いていると言うのだよ!?オレにはさっぱり分からないのだけど…」
「皆勤賞のことよ。」
「カイキンショウだなんて断った!!」
「どうして断るのよぉ?」
「カイキンショウじゃなくて、オレにJFをやめろと言うたのだよ!!」
「お仕事をやめるのじゃなくて、お仕事をする場所を変えるだけなのよ…住まいも生まれてからずっとこの家で暮らしてきたでしょ…結婚後も同じ家で暮らし続けていたので住まいも変えてみたらどうですかと言うただけなのよ。」
「だからオレに、遠くへ行けと言いたいのか!?」
「外国とか沖縄とかじゃなくて近くに移るだけなのよ…吉浜さんはね、きよひこさんが長く働くことができるようにと思ってJFよりも少しだけどお給料がいい職場が見つかったのよ…行き先は…釜石の方なの…釜石の製鉄工場の経理事務のお仕事よ…住まいも工場からバスで一時間以内のところにある市営住宅なのよ…」
「そんなん断った!!冗談じゃないよ!!オレはJFのために安いお給料でもがまんしてヘエヘエヘエヘエ言いながら与えられた仕事を文句ひとつも言わずに働いてきた…すむところもオヤジがさみしいさみしい言うからがまんしてここで暮らしてきたのだぞ!!義姉さんはそんなオレの気持ちが分かっていないのだよ!!」
「分かっているわよ…だから吉浜さんはきよひこさんに釜石へ移ってみたらどうかなと言ってくださったのよ。」
「だから断った!!吉浜のゲジゲジ虫ケラ野郎の言うことは絵に書いたもちなんだよ!!そんな都合のいい職場なんかあるわけない!!ゲジゲジ虫ケラ野郎はオレをグロウしたからぶっ殺してやる!!」

きよひこは、ごはんをたくさん残した後に黒い手提げかばんを手に取って、家を出ようとしていた。

「待ってよきよひこさん…朝ごはんたくさん残っているわよ…お腹がすくわよ…ねえ…」

朝ごはんをたくさん残して家から出ようとしているきよひこをさよこは止めていたが、きよひこは怒りを強めていた。

「きよひこさん待ってよ。」
「何や!?」
「きよひこさん、きよひこさんね…皆勤賞と言うのはね…今までよくがまんをしてうちとJFの往復だけの暮らしをしてきたこととこずえさんと結婚をしたのにスイートホームを持つことができなかったので、ごほうびとしてスイートホームを与えてあげるというていたのよ!!お仕事も今よりお給料のいい職場で経理事務の仕事を続けて行くことができるように…」
「絵に書いたもちみたいな話をするな!!」
「それじゃあ、きよひこさんはスイートホームもいらないし釜石の製鉄工場に転職しないと言いたいのね!!」
「こずえと離縁したから意味がねーのだよ!!何なのだよあんたは!!あんたこそ宇宙飛行士の仕事で大成功をおさめてテレビで有名になったので、鼻がテングになっているのだよ…そうやってアニキをなじったのだろ…セメントまみれに汚れた汚いテイシュだと…ああ!!」
「きよひこさん…」
「あんたはね!!宇宙局で役員になったからもっと偉くなりたいと思っていたのにと言う表情になっているのだよ…だからあんたは子供にも嫌われたのだよ!!ふざけるなよ!!オレはあんたらをうらみ通すからな!!覚悟しておけ!!」

きよひこはさよこに思い切りツバをはいた後、手提げかばんを持って職場へ出勤をした。

きよひこはますますイコジになっていたので、周囲の人たちはきよひこをどのようにして説得をすればよいのか分からなくなっていた。

そうこうして行くうちに、ちづるは結婚準備が進んでいたし、めいこの家との間に生じていましたわだかまりはますます深まっていた。

きよひこがことの重大性に気がついた時には、すでに手遅れになっていた。
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