君の隣にいるのはずっと私だと思ってた
 何か一言彼に言ってやろうと口を開きかけた時、香菜が穏やかな口調で


「そうなの。倉本さん、幼馴染みの尚くんが私みたいな人にとられちゃったから、ヤキモキしちゃったらしくて。そうだよね、倉本さん」


 香菜に庇われたのは癪に障るが、この嘘に乗っかることにした。


「う、うん、そうだよ。あんた今まで彼女作ったことないくせに、いきなり春川さんと付き合いだすから」

「そっか。やっぱりそうだと思った」


 そうだと思ったじゃないよ、と心の中で文句を言いながら彼の言葉を聞く。


「香菜と付き合い出してから、確かに朱夏といる時間減ったもんな。だから、これからはお前との時間もちゃんと作るよ。香菜もいいよな?」

「うん」

「それじゃあ、今日はあれだから、……確か明日は香菜なんか用事あって一緒に帰れないんだったよな」

「そうだよ」

「だから、明日久しぶりに一緒に帰ろうぜ、朱夏」


 自分に向けられた好意的な笑み。
 そんな表情を向けられたら、思わず頬が朱色に染まるのを朱夏は感じる。

 やはり尚はそんな彼女の様子を気にすることなく、変わらず笑みを浮かべている。それに少しむっとしながら、しかし笑みを浮かべる。


「うん」


 そう言った後に、朱夏は小声で


「いい加減気づけよ、ばか」


 と一瞬下を向きながら言い、すぐさま顔を上げる。
 そして強気な笑みを浮かべ


「尚、覚悟しておいてよね。じゃあね、明日楽しみにしてるから」


 そう言い、香菜の方を少し見てからその場を去る。
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