君の隣にいるのはずっと私だと思ってた
 相変わらず綺麗な顔立ちをしているが、その表情は怒りに満ちあふれていた。いつもは優しげな瞳にも怒りが宿り、朱夏のことを睨み付けていた。

 なんとか弁解せねばと朱夏は尚に話しかけようとするが、それを彼にまた遮られる。


「なあ、朱夏。お前香菜に何言ってんの?」


 いつもより低い彼の声。これは彼が本気で怒っている時の声だ。
 今更何を言っても無駄だと思いながらも、『もしかしたら尚なら許してくれるかもしれない。あの優しい彼なら』そう思い、


「あのね、尚。これは違うの。少し春川さんと言い争いになっただけなの」

「言い争い? それにしては俺には一方的に見えたけど」

「そうじゃないの」

「そうじゃない? 香菜がこんなに怖がってるのに?」


 明らかに尚は朱夏に敵意を向けている。
 こんな尚の表情を自分に向けられるような日が来るとは思っていなくて、朱夏は言葉を失ってしまう。そんな彼女に尚は


「今度はだんまりかよ。お前はそんな奴じゃないと思ってたのに。お前なら俺達のこと応援してくれると思ってたのに。……行こ、香菜」


 そう言い、香菜の手を掴んでその場を去っていってしまうと思い、朱夏が立ち去ろうとする尚の服を掴んだ。
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