海の景色が変わる頃には…
気付いたら私は凌の頬をひっぱたいて小走りで音楽室を後にしていた。

「凛~!!」

振り向くとけんちゃんが校庭でサッカーボールを持って立っていた。

「なにしてんの?」
「お…俺?いや…サッカー…?」
「ふーん。頑張ってね!じゃあね。」

「ちょっ!ちょっ待って!暗くなってきたし俺も帰ろうかなぁ~…なんて…」

「帰るなら早くカバン取って来なよ。」
「おっ!おう!」

けんちゃんを待ってる間にも凌に対する腹立たしさは収まらなかった。

帰り道、けんちゃんとはいつもと変わらず他愛もない話をした。そんなけんちゃんを見ていると少しだけ気持ちが落ち着いた。




合唱コンクール当日

1年生達の歌声が体育館中に広がっている。客席から1年生を眺めていたけどあと数分後には…って考えたら胸の鼓動が止まらなかった。

2つ隣の席に座っているけんちゃんは口をポカンと開けて眠っている。

1年生の発表が終わり、私達の番が近づいて来た。1組が歌っている間私達2組は舞台裏に移動して待機していた。

緊張しすぎて1組の歌声なんて全く耳に入って来ない。手にも汗がにじんで震えが止まらない。斜め前にいる凌は涼しい顔をしている。

「わっ!!」

突然の声にびっくりして振り向くとけんちゃんがケラケラ笑っていた。

「お前もしかしてびびってんの?」
「べ…別にぃ!!そっちこそそんな余裕な顔して歌詞とか間違えるんじゃないの!?」

「俺に限ってそれはない!まーあれだ。俺は昔から運だけはいいから大丈夫だって!がんばろーぜ!」

根拠なんて全然無いのになぜだか自信たっぷりのけんちゃんの笑顔にちょっとだけ緊張がほぐれた。

「指揮、玉置凌。伴奏、澤原凛。」

私は凌の隣に並んで客席に向かって一礼した。

ピアノの椅子に座り緊張がピークに達した瞬間左斜めから視線を感じた。

視線の方見るとけんちゃんがいつもの笑顔でこっそり私にピースした。

大きく深呼吸をし鍵盤に手を置くと凌の指揮棒が上がった。







コンクールが終わり教室に戻るとみんな大はしゃぎしていた。

「おーい席つけー」
先生が教室に入るとみんなそれぞれ席に着いた。

「みんなよく頑張ったな!賞金の3万円は約束通り打ち上げに使えー。分かってるとは思うが…乾杯はジュースだからな!!」

今日は先生もすごく機嫌が良かった。HRが終わると先生はニコニコして教室を出て行った。
打ち上げは明日の夕方からクラスの子の親が経営してる居酒屋でする事になった。

「減速全員参加です。もしどうしても無理な人は早めに僕までお願いします。」

凌がそう言うと、けんちゃんが由香に話しかけているのが後ろから聞こえた。

「由香達も参加するんだろ?」
「うん!行くよー!」
「じゃあさ、晃も一緒に4人で待ち合わせして行かね?」

「いいねー!…ねっ!凛、大丈夫だよね?明日!」
「え?あ、うん!!」

振り返って私が答えるとけんちゃんは「決まりー!」と満足そうに笑った。

次の日、いつもより念入りに鏡の前で服装をチェックして少しだけビューラーで睫毛を上げて色付きのリップを塗った。

待ち合わせ場所の公園に着くと晃が先に来てブランコをこいでいた。

「早くない?」
私がそう言って近づくと
「張り切りすぎた!」と晃が笑った。

「えー!そいたら私も張り切ってるみたいだからやめてよ!」
「え?違うの?10分も前に来て?」
「別に張り切って無いしー!」
「はいはい!」

そういうくだらないやりとりの途中で晃が急に真顔になって私に聞いた。

「お前さ…最近玉置とどうなの?」
「え?」
「あ、いや別に言いたくないなら言わなくていいんだけど…」

「別れたよ!…腹立ったから殴ってやった!」

そう言って笑いながら晃の方を見ると一瞬「はぁ!?」という顔をして「お前がー!?」と大爆笑しだした。

お腹を抱えてヒィヒィ言った後なみだを拭きながら
「まぁ…いんじゃね?俺もあいつの事苦手だし!何かあったら俺らが仕返ししてやるよ!」
と言ってブランコを降りた。

凌と別れてから私はどれだけ友達に救われただろう…。こんなにいい友達をたくさん持ってすごくすごく幸せ者だ。

時間通りに由香が来て、5分遅れてけんちゃんが来た。
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