海の景色が変わる頃には…
家に帰ってベッドに座ったままずっと考えた。
けんちゃんに好きって言われて胸が締め付けられるような感じがした。けんちゃんが本気で言ってくれてるのも分かった。
でも…
付き合ってまたあの時みたいになったら…
凌との事が頭から離れず結局その日は答えを出す事ができなかった。
次の日
恐る恐る教室に入ったけどけんちゃんはまだ来ていなかった。
「おはよう!遊園地はどうだった?」
何も知らない由香が明るく駆け寄った。
「あ…うん!遊園地は楽しかったよ!ひかりちゃんとも仲良くなれたし」
「その割には元気無くない?」
由香が心配そうに私の顔を見た。
「あのね由香…私昨日けんちゃんに付き合ってほしいって言われて…」
「そうなの!?それで凛はどう思った?嬉しかった?」
「嬉しかった。…嬉しかったんだけど付き合ってって言われた瞬間凌の顔が頭に浮かんだの。」
「おはよう!!」
由香との話の途中で後ろからけんちゃんの声がした。
けんちゃんはいつもと変わらない。
「あっ!おはよう!」
私もいつもと同じようにけんちゃんに挨拶をした。
1日中けんちゃんは昨日の出来事がまるで嘘だったかのようにいつも通りだった。
放課後、朝の話が途中だったからうちの近くの公園で話の続きをする事にした。
「…で、どうするの?」
由香がブランコに乗ってゆっくり揺らしながら私の方を見た。
「今はね、付き合うのが怖いっていうか…うーん…何て言ったらいいんだろう…
付き合って凌との関係みたいになってしまうのが怖い…」
「そっか…。なるほどね…。確かに凛が付き合う事に対して恐怖心を持ってる気持ちは良く分かるよ。つらい経験したんだから…
でもね、凛、凌くんは凌くん。健太は健太なんだよ?
凛の素直な気持ちのまま…ゆっくりでいいからさ、答え出していいと私は思うけどな」
由香はそう言ってトンっとブランコからジャンプすると、くるっと振り返った。
「大丈夫だって!健太アホだけどさ、いい奴じゃん!」
由香はニヒっと笑うと私の肩をポンっと叩いて「しっかり考えなね!」と言って帰って行った。
家に帰ってベッドにバフっと倒れ込んだ。
頭に浮かぶのは今日由香が言った「凌くんは凌くん、健太は健太だよ」という言葉と
ニカっと笑ういつものけんちゃんの笑顔だった。
数日後、学校の帰りに何気なく海に立ち寄った。
坂の上から海を見下ろすと流木にけんちゃんが制服のまま座っていて大きなくしゃみをしていた。夏は暑かった海もさすがに11月後半になると冷たい風が吹いている。
ゆっくり歩いてけんちゃんの後ろから「わっ!」っと驚かせた。
けんちゃんの反応が予想通りすぎて大笑いしている私を見るとけんちゃんも一緒に笑った。
「座ったら?」
流木を叩きながらけんちゃんが言った。
他愛もない話の途中で時々けんちゃんが見せる笑顔はいつもの笑顔のはずなのに、見ると胸がきゅうっとする。
「このままずっとけんちゃんと一緒にいたい」
この時素直にそう思った。
「あのね…」
私が言うとけんちゃんが
「ん?」っとこっちを向いた。
「この前の返事…」
私がそう言うとけんちゃんの表情が変わり真っすぐ私の目を見た。
「私も…けんちゃんが大好きだよ」
「えっ…!?!?ほ…本当に?」
「嫌なの!?」
私が笑いながら言うとけんちゃんは
「すっげー嬉しい!!」と
満面の笑みを浮かべた。
「返事…すぐ言えなくてごめんね?けんちゃんに公園で言われた時本当はすごく嬉しかったの。でも、けんちゃんとは今の凌と私の関係みたいになりたくなくて…」
私はそのまま凌との事を全部話した。
けんちゃんは何も言わずに全部聞いてくれた。
私の話が終わるとけんちゃんは黙ったまま私の頭を片手でくしゃっと撫でた。
「…んー。俺は『お前を幸せにする!』とか大きい事は言えないよ。まだ中2のガキだしな。でも凛をすっげー好きな自信はある。信じろなんて言っても今の凛には信じれないだろうけど…。でも俺らなら絶対うまくいくって俺は信じるよ。」
けんちゃんがそう言った瞬間夕日に照らされたのオレンジ色の海が一瞬にしてキラキラ輝いて見えた。
永遠なんてあるわけないってそんなこと分かってるけど、
永遠なんて存在しないのなら…せめて、目の前にいる大好きな人と過ごす時間が1秒でも長く続きますように…
この時初めて心の底から強くそう思った。
いつもの帰り道を今日はけんちゃんと手を繋いで帰った。
けんちゃんの大きい手は暖かくて、海で冷えた私の手を温めてくれた。
家に着くまでの間いろんな事を聞いた。
付き合うまでの間みんながすごく協力してくれた事。
そして何より6年前から私を好きでいてくれた事。
「6年前!?!?」
「そだよ」
「2日間しか遊んでないじゃん!」
「だーかーらー、今までその事誰にも言った事無いんだよ!そう言われんじゃん!」
「あははっ!そっか!ありがとう。すっごい嬉しい!」
次の日学校で由香にけんちゃんとの事を報告したらすごく喜んでくれた。
それから毎日私とけんちゃんは一緒に帰った。
けんちゃんと一緒にいる時間が何よりも楽しくて一緒にいればいるほどけんちゃんを好きになっていった。