猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
熱いシャワーを浴び、自室に戻った。まだ私の荷物がたくさん入ったクローゼットから、襟の詰まった半袖ワンピースを取り出し、着替えた。
こちらの方がキスマークが見えなくて安全だ。
身綺麗にしメイクはしない。そろそろお昼だろうかとダイニングに降りて行くと、そこには諭がいた。

「お嬢さん、お帰り」
「え?諭?どうしたの?」

諭は現在甘屋デパート近くに部屋を借りてひとり暮らし。この家にはたまに食事をしにくる程度だ。

「幾子お嬢さんが帰ってきはったって寒河江さんから連絡もろた」

諭は眉をひそめ、私を見据えている。非難しているわけじゃない。私の様子を伺って、切り出すタイミングを計っているように見えた。

「ほら、お昼にしよ。な?」

寒河江さんが三人分の昼食を運んでくる。里芋のたくさん入ったお煮しめにれんこんのきんぴら、漬物、焼き魚、ごはんと吸い物。懐かしいこの家の食卓に目を細めた。

「寒河江さんのきんぴら大好き!向こうに行ってもずっと食べたいって思ってたの」
「ほんま?うれしいわぁ。たくさん食べて」

私は諭の視線の横で手を合わせ、早速鷹の爪の散ったきんぴらをたっぷりとごはんの上に載せた。

「社長おひとりになったらお食事作る回数が減って寂しかったんですわ。志村さんも今、ご主人調子悪いからお休みもろてるし」
「え、志村さん、そうなの?」

もうひとりの年配のお手伝いさんの顔を思い浮かべながら言う。志村さんは寒河江さんと対照的に線の細い女性だ。お裁縫が得意で、嫁入り修行時の和裁洋裁の基礎は志村さんから習ったのだ。
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