猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「みんな年やから。うちと志村さんかて交代制でしょう?もう毎日は勤められへんよ。諭さんと幾子お嬢さんがいた頃は、ふたりともよお食べるし洗濯物もぎょうさん出るから二人体制やった。忙しかったなあ」

懐かしい思い出話に、一瞬数年前に戻ったような感覚になる。
こうして寒河江さんや志村さん、諭と一緒に食事をした。この家での八年間。
最初こそ不安と寂しさで周りを警戒し、毎日泣いていた私を、家族として迎え入れ、心をほぐしててくれたのはお手伝いさんのふたりと諭だった。

「幾子お嬢さん」

諭が口を開く。

「旦那とうまくいってへんのか?」

茶碗と箸を置き私は押し黙った。うまくいってるとかいってないとかの言葉で括れない。

「あの男に暴力振るわれとんのか」
「そういうんじゃない」
「じゃあ、なんで戻ってきたんや」
「里帰りしちゃ駄目なの?」

諭の詰問口調に、つい苛立った口調になってしまう。
言ってしまってから、はっとした。諭は私を心配して駆けつけてくれたのに。
寒河江さんだってそうだ。突然帰ってきた私に何かあったと察して諭に連絡をつけて、好物を作ってくれたのだ。

「ごめんなさい」

私は諭に頭をさげてから、努めて冷静に言う。

「でも、諭だからなんでも話すわけじゃないの。何日かここにいたいだけ。自分で解決したいから」
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