猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
こうして私の家出はたった半日で終結してしまった。朝から晩までだもの。きっかり半日だ。
寒河江さんがせっかく作ったからと夕食を折詰にしてくれ、『ご主人と食べてくださいね』と持たせてくれた。中身は、飛竜頭の煮物、白身魚と大根の砧巻、ちらしずし。夏場だからと厳重に保冷バッグにたくさんの保冷材と一緒に入れてくれた。お陰様で結構重たい。

父は涙を見せたことが恥ずかしかったようで、その後は私とろくろく話しもせずに自室に籠ってしまった。『じきに機嫌直すわ。ほっとき』と諭は笑っていた。

今日、ここに帰ってきてよかった。父とこういうふうに話す機会は、あのまま東京で過ごしていたら訪れなかっただろう。私たちは冷めきった父娘のまま、断絶していただろう。
偶然だけど、父と話せてよかった。喧嘩ができてよかった。

門まで見送りに出てきた諭は腕を組んで言った。

『三実さん、次に幾子が逃げ帰ってきたときは、絶っっっ対に渡さへんからな』

堂々とした勧告に、三実さんもまた威勢よく返す。

『わかりました。そのようなことがないよう、いっそう幾子を愛し抜くと誓いますよ!』

私の戻る宣言がよほど嬉しかったようで、意気揚々と答えるのだ。
次に逃亡するときは責任重大だと私が戦々恐々。諭と三実さんのバトルがないように気を付けなきゃ。
ふたりで新幹線に乗った。日はまだ高い。東京に着く頃は夜だろう。
座席に座っても、三実さんはずっと私の手を離さない。照れて、恥ずかしくて、うつむく。

「戻ってきてくれて嬉しい」

ようやく三実さんが言葉を発する。私はおそるおそる彼を見上げる。三実さんが気づかわしげな表情でこちらを見つめていた。こんな表情もするのだと新しい発見ばかりだ。
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