猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「実はここ三ヶ月、赤ちゃんができないかなあってタイミングを計ったりしてたんです。でも、できなくて……。病院で聞いたら、夫婦とも詳しく検査できるって……でも原因不明で不妊ってこともあるそうで……」
「なるほど」

三実さんが大きく頷いた。

「最近、幾子の元気がなかったのはそれか」

気をつけていたつもりだったけれど、私の微妙な様子の変化を三実さんはきちんと嗅ぎ取っていたのだ。うつむく私に、三実さんは明るく言う。

「赤ん坊の件は、急ぐこともない。考えてみれば、十二歳のおまえに恋をして八年待ったんだ。俺は待つのは得意だ」
「でも……!」

明るく言われ、私の焦燥だけが強くなる。
だって、あなたは赤ちゃんが欲しいんでしょう?

「どんなに待っても……赤ちゃんができなかったら……」
「そんなことを気にしていたのか?」

三実さんが私に向き直った。力強い大きな眼が、私を真っ直ぐに見つめていた。
そこに獣の激しさはない。優しい灯火がある。

「以前も言ったが、俺は自信がなかった。幾子にしてみれば、ひと回りも年上の夫で、今までの人生に接点もない。俺と幾子を繋ぐ存在として、早く子どもが欲しかった。……だが、それは幾子に片想いしていた俺の話だ」
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