猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
脱衣所で着替える。袖を通してぎょっとしてしまった。胸元はざっくりと開き、脚には深いスリットが入っている。ボディラインを強調したデザインだ。
胸は人並にあるとは思うけれど、背がさほど高くない私は、ドレスに着られている感全開だ。
この格好見せなきゃ駄目なの?
おそるおそる脱衣所から出ると、三実さんが感嘆の声をあげた。

「思った通り」

ぐんぐん歩いてくると、私の腰に腕をまわし引き寄せてくる。突然の接近と接触に、私は声にならない悲鳴をあげた。頭の中には一昨日の夜の出来事がフラッシュバックしている。
しかし、三実さんは活き活きと話し続ける。

「今季の新作なんだが、よく似合っている。幾子はシックだけど主張のある色が似合うと思っていたんだ」
「あの、三実さん」
「綺麗だ。ノーメイクでこれだけ綺麗なんだ。髪をあげて、メイクをしたら、どこに連れて行っても目を惹く美女の完成だな。いや、そうなったら俺はおまえを外へ出せなくなる」

間近で言われる言葉は褒め言葉なんだろうけれど、普段のテンションと同じなので、褒められているというより評価されているといった雰囲気だ。
この人は私を商品として見ているのではないかという疑問まで浮かぶ。

「よし、普段の服に着替えていいぞ。朝食に行こう」

ぱっと私から手を離し明るく笑う彼は、私には宇宙人レベルで意志の疎通のできない人に見えた。
よくわからない。肉食獣みたいに見えたかと思えば、落ち着ききった様子で褒めてきたり、巧妙な作り笑いをする人。本心が見えないし、行動ひとつひとつが理解できない。
この人が私にとって満足に会話できるたったひとりの人になるのだと思うと、背筋が寒くなるような心地だった。
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