猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
その日、朝食を終え整理を済ませ、お昼ごはんを食べたら、私にはやることがなくなってしまった。
どうしよう。本でも読もうかしら。書斎の本は読んでいいと言われているけれど。

毎日こうして暇を持て余して暮らすの?
せっかく覚えてきた料理は腕を振るう機会もなさそうだし。……いや、それはすごく得意ってわけじゃないからいいとして。

そうだ。お屋敷の中を見て回っていいと言っていた。
しかしひとりでうろうろするのも不審者みたいだ。そこで私は内線電話でお手伝いさんを呼ぶことにした。

「あのう、おうちの中を案内とか……していただけますか?」
「ええ、ご案内いたしますよ」

初老のお手伝いさんは結婚式の日からお世話になっていて、曽根崎さんという。もうひとり30代後半の甲本さんという女性と交替で離れの世話をしてくれているみたい。
曽根崎さんの先導で金剛邸を隅から隅まで見て歩くツアー開催だ。
ご家族のプライベート空間には立ち入れないとしても、たっぷり一時間をかけて案内してもらった。大広間に客間、茶室、厨房……。庭も広い。趣の違う庭がいくつもあるので、庭園のテーマパークに来たみたいだ。温室で蘭を見せてもらっていると、近くから鶏の声が聞こえてくる。

「養鶏もしてるんですか?」
「卵は毎日使いますからね」

養鶏……ここまで植物はあっても生物の気配に出会わなかった。ちょっと見てみたい。

「養鶏場も覗いていいですか?」
「奥様がしみじみ見る場所ではないですよ。うるさいですし、匂いもあります」

曽根崎さんはあからさまに顔をしかめている。そうか、彼女の時間を奪っているのもよくない。
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