猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「あの、三実さんとのことは言わないようにしていますので」
「ああ、麻生さんもそう言ってたね。俺としては、誰に言ってもらっても構わない」

にこにこと答える三実さん。いつもの腹の見えない笑顔だ。

「いつだって幾子を妻としてみんなに紹介できるよ」
「ああ、ありがとうございます。でも、きっと混乱しちゃうんじゃないかって麻生さんが」

社長の妻が備品管理でパートしているって知られたら、社員はみんな気を遣うに違いない。それにまだ子どもっぽくて三実さんの妻として不釣り合いすぎる。

「わかったよ。じゃあ、しばらくはそうしよう」

三実さんは表面的には完璧な笑顔で答えた。



この土日も三実さんは出勤だった。ビジネスランチや付き合いでゴルフにも行くと言っていたので、私も朝から鶏舎にいる。

「植松さんは住み込みなんですよね」

朝の世話が終わり、私たちは並んでお茶を飲んでいた。離れから私が淹れて持ってきたもので、麻生さん夫妻からもらったおまんじゅうがお茶請けだ。

「今はな。女房が生きていた頃は近所に家借りて住んでたよ」

植松さんは70代。若い頃から金剛家で働いていると聞いている。
鶏舎の世話や芝刈り、庭木の剪定もやっているそうだ。母屋にある日本庭園は専門の植木職人を頼み、温室の蘭は一久さんの奥様のご趣味だと言うから、それ以外の細々とした野良仕事は植松さんが請け負っていることになる。
< 38 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop