猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「息子夫婦がうちに来いって言ってっけどな。今更ここ離れるのも面倒だろ。金剛家なら息子んところより悠々自適だからな」
「長くいらっしゃるとそうなるんですねえ」
「そうそう、そういうもんだ」

植松さんがお茶をぐいっと飲み、盆に置く。

「若奥様も、何年もいりゃ慣れるさ。あんた随分若い。俺が奉公に来たときもそんな年だったけど、今じゃこっちの方が居心地いいんだから」
「だと、いいんですけど」

思わずため息をついてしまった。今の状況に不満はない。ありがたい環境を用意してもらったと思ってる。
だけど、たまに思う。この結婚がなければ、私はまだ京都にいて甘屋デパートで働いていたんだろうな。

「政略結婚ですからねえ」
「政略結婚?」

植松さんが首をひねった。

「俺はよく知らねえけど、若奥様の家っつうのは関西のでかいデパートグループだろ?金剛とそこは提携してるのかい?」
「いえ……今は……」

答えて私も首をひねった。
あれ?そういえば、あれだけまことしやかにささやかれていた金剛が甘屋の実権を握るという話が、その後進んでいないような。

「たぶん……これから?何かあるんじゃないかと……」
「ほお、そうなのか」

植松さんが頷いた。
言われてみて思ったけれど、もし甘屋と金剛の業務提携がないのなら、私が三実さんのところにお嫁にきた理由はなんだろう。
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