猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
甘屋の後継が必要だから父の手元に呼ばれたのに、今度は父の政略で他所へ嫁がされるらしい。同居して父との溝が埋まったわけではなかったけれど、こんなに簡単に放逐されるとは思わなかった。

父には可愛がっている部下がいる。部下に甘屋グループを任せる腹積もりが決まったのかもしれない。血よりも絆。父なら有り得る決断だ。
一気に不信感でいっぱいになった私に、父は言った。

『金剛家からの申し出だ。御三男の妻に、是非と』

金剛家が私になんの用があるだろう。甘屋を傘下に入れたいのだろうか。
金剛家は江戸時代から続く大商人の家だ。武家への金貸しで材を成し、今や日本の財界の中枢にいる大企業グループだ。
うちも老舗ではあるし、関西ではそこそこの企業だけれど、金剛は格が違う。
その金剛家が、なぜわざわざ私を求めてきたのかがわからない。母の家柄も関係しているのだろうか。

聞けば三男の三実という人は、兄たちに金剛本体の運営を任せ、自身は金剛商事という会社を立ち上げ、経営しているらしい。立場はグループ企業の社長だ。

私の縁談話の裏では、金剛商事に甘屋デパートの経営権を譲渡するのではという憶測も社員たちから出ていた。
私個人は高校在学時に結婚を決めるつもりはなかった。大学まで学び、そこから甘屋デパートで働きながら父の探してきた婿と三十代に差し掛かる頃で結婚だろうと勝手に想像していた。
だから、こちらの意志に反して、あっという間に婚約が決まってしまい、本当に驚いた。

私は顔合わせの席で、金剛三実という人と初めて会うことになった。
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