猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~

「おお、そうかそうか。甘野さんが仰っていた自慢の部下のひとりかな?甘野さんは優秀な部下が多いそうだ。羨ましいなぁ。日下部くん、少し寄って行きなさい。なあ、幾子さんみんなでお茶を飲もう」

お義父さんはニコニコと人の良さそうな笑顔で返す。老獪な金剛グループの頂点には見えない穏やかな様子だ。

もしかして、諭の人柄を見極めようとしてるのかしら。それこそ、先々の金剛と甘屋デパートの経営統合のために……。

「金剛様、ありがたいお申し出ですが、これから取引先に赴かなければなりません。お茶はぜひまたの機会に」
「それは残念だ。甘野さんの秘蔵っ子と話がしたかった。次の機会はあるかな?」
「今回は明後日には戻りますが、2週間後に甘野と上京します」
「おお、じゃあ、そこでみんなで会食としよう。なあ、幾子さん」

お義父さんが笑顔で私に話を振るので、わたしはこくんこくんと大きく頷いた。
父と一緒に食事っていうのは嫌だけど、お義父さんが言うなら仕方ない。諭が人好きのする笑顔で言う。

「楽しみにしています、金剛様。ところで明日の昼、幾子お嬢さん……若奥様を少々連れ出してもよろしいでしょうか?社長とデパートの職員に土産を買っていきたいのですが、幾子お嬢さんからと言って渡したいのです」

流暢に言う諭にお義父さんは理解ある様子で答えた。

「積もる話もあるだろう。幾子さん、食事がてらゆっくり行ってきなさい」

私は頷きつつ、付け足した。

「今晩、三実さんに聞いてみます」

一応は人妻だもの。相手が兄同然の存在でも、夫に伺いを立てるのは大事だと思う。

「それでは、突然お伺いしまして失礼しました。……幾子お嬢さん、また連絡させてもらいます」

諭はそう言って、金剛邸を後にした。
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