猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
その晩、三実さんは割合早く帰ってきた。休日出勤ということもあるだろう。
夕食を囲むこと自体数えるほどしかなくて若干緊張する。今日は言いたいことがあるから余計だ。

お手伝いの甲本さんが運んできた食事をふたり分並べて、お茶を淹れて夕食にした。たまねぎのたっぷり入った生姜焼きを前に、私は三実さんを見つめた。
食べ始めた三実さんが私の視線に気づく。

「どうしたんだ?幾子」
「あの、明日の昼出かけてもいいでしょうか?」

三実さんは、わずかに考え、言った。

「もちろんいいよ。誰と出かけるんだ?」

さりげなく尋ねてくるけれど、なんとなく空気が不穏に感じるのは気のせいだろうか。

「父の部下の日下部というものです。京都での八年、随分面倒を見てもらいました。兄のような存在です」
「へえ」

三実さんはため息のように言って、言葉を切った。しばらく食器の音だけが離れのダイニングに響く。

「俺も同行しようかな」

突然そんなことを言われ、驚いた。三実さんも一緒に?
私が返事に窮していると三実さんはあの貼りついたように穏健な笑顔を浮かべて言うのだ。

「だって、幾子にとって兄ならば、俺には義兄だろう。一度ちゃんとご挨拶しておきたいよ」
「そんな、たいしたことじゃないので。三実さんがお越しにならなくても大丈夫ですよ」
「子どもの頃の幾子の話も聞きたいしね。それに、幾子の家族なら気軽に我が家に遊びにきてほしいじゃないか。やはり挨拶したいよ」

ニコニコ笑っているのに、どうして寒々しい空気を感じるのだろう。笑顔に真実味が全然ない。

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