猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「もう少し、私から彼に近づかなきゃ」

夫婦になったのだもの。彼は私との間に子どもを望んでいるし、大事にしてくれる心づもりは感じる。私がもっと歩み寄って、いい奥さんにならなきゃ。
三実さんはその晩帰ってこず、メッセージアプリには『徹夜になってしまいそうです。心配しないでください』という連絡が入っていた。ランチのお店のURLと一緒に。



「幾子お嬢さん!」

待ち合わせは東京駅にした。諭のホテルが近いし、金剛邸からも遠くない。お土産物を買うならちょうどよく、ランチも日本橋なのでこの近くだ。

「諭、おはよう」

私はワンピースにジャケット姿だ。サマースーツ姿の諭は今夜は客先と会食で、明日京都に帰るらしい。空いた時間に会いに来てくれたのが嬉しい。

「お嬢さん、スカート丈短いんちゃう?」
「こんなもんじゃない?膝丈だもん」
「ずっこけたらケツ見えるで」
「ずっこけなきゃいいんでしょ?ずっこけたら誰だってパンツ見えちゃうわよ」

くだらないやりとりまで嬉しい。諭は大学卒業までうちに住み込みだった。彼が高校三年の時に私が京都に戻ったので、丸五年一緒に暮らしたのだ。

それというのも、諭のお母さんは父の下で長年働いた部下だった人だ。両親が結婚した頃に甘屋デパートを辞め、ホステスをしながらひとりで諭を育てたそうだ。諭が中学生の時に、病気で亡くなっていて、父はそれから諭を引き取り学費を出し、甘屋に就職させたという経緯がある。
だから、諭と私は兄妹のような関係なのだ。
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