猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「お嬢さん、コーヒー飲まへん?ホテルの朝飯しぉっからくて」
「三実さんとのランチまでそんなに時間ないんだから、今コーヒー飲んだらお腹いっぱいになっちゃうよ」

三実さんと一緒にランチを食べる話は昨夜の時点で連絡してある。諭はまったく問題ないようで『OK』という元気なスタンプが返ってきていた。

「コーヒーくらいで腹いっぱいになる?」
「私はなるの。それにみんなのお土産、先に買っちゃおう」
「そんなん口実や。あのお屋敷から幾子お嬢さんを連れ出す」

諭が悪戯っぽく笑った。

「俺とお嬢さんが兄妹みたいな関係でも、知らんヤツらから見たら他人やろ?人妻を連れ出すには口実が要るんや」
「意外と考えてるのね、諭」
「俺をなんやと思ぉてはるの?」

諭が私のほっぺたをぐにーっとつまんでのばす。私は痛い痛いと文句を言いながら笑ってしまった。

私の母は諭のお母さんと父の仲を疑っていた。そのことで口論していたことも、幼い私は覚えている。そのあたりの真偽はわからないけれど、父は諭を可愛がっている。諭自身に能力があるのはもちろんだけど、甘屋の内部でも父の後継者、若旦那みたいな目で見る人間も多い。今回も大きな仕事を任され、父の代理で東京に来ている。
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