猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
諭の存在があるから、父は私を東京にお嫁に出したのだ。
気持ちの通わない実の子よりも、能力のある他人の子が可愛いのだと感じると心に薄暗い部分を感じる。私が男の子で、父から離れずに京都で育てば、父は諭より私を愛しただろうか。
父に愛されたかったわけじゃない。だけど、私の居場所がなくなったような気はしている。諭のせいじゃないし、諭がいたから私は京都で平穏に楽しく暮らせた。
だから、こんな矛盾は口にしない。

「幾子お嬢さん」

諭が顔を覗き込む。

「駅ビルぶらぶらしよかと思てたんやけど、やめよか?疲れてる?お屋敷の暮らし、しんどいんか?」

私が一瞬暗い顔をしてしまったのを見逃さず、諭が尋ねてくる。

「え?全然元気だよ!お屋敷も慣れてきたし。そうそう、鶏飼っててね。私、世話を手伝わせてもらってるの」
「へえ、幾子お嬢さん、生き物好きやからよかったなあ」

諭が笑顔に戻った。私もほっと息をつく。鶏舎の話や職場の話をしながら、私たちは東京駅の中を散策することにした。ランチまであと一時間ほどある。



ランチは少し歩いた先、日本橋のイタリアンだった。大きなオフィスビルやショッピング関係の複合施設が立ち並ぶ通りを入ると、路地は老舗の和食店が変わらぬ佇まいで営業をしている。一方で居酒屋が多いのもオフィス街らしい。
三実さんが予約してくれたお店は比較的新しい雰囲気のお店だ。テラス席もついた広いお店はこのあたりでは珍しい。
諭と連れ立って店内に入ると、奥の広々とした予約席に三実さんはすでに到着していた。
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