猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「幾子、こっちだよ」
「三実さん」

まずは三実さんと諭が名刺交換と挨拶を済ませ、私たちは席についた。

「今日はお席まで準備していただいてありがとうございます」

諭が頭を下げる。三実さんは笑顔だ。

「いえいえ、幾子にとってお兄さん同然と伺ってます。俺の方がだいぶ年上ですが、日下部さんは俺の義兄になりますね」
「諭、と呼んでください、三実さん」

諭が愛想よく言い、私がほっとした。諭は私のお嫁入りを心配していたひとりだからだ。

「ところで、幾子お嬢さんはちゃんと奥さんの役割を果たせてますか?甘ったれなところがあるんで心配してたんです」
「もう、諭。余計なこと言わないで」

私が文句を言うと、諭は「ホントのことやろ」とニヤニヤしている。

「幾子はどんな子どもだったんですか?諭さんは彼女が中学生から一緒に暮らしていたとか」
「ああ、誤解せんといてくださいね。俺のお袋が死んだんで、知り合いだった甘野社長が引き取ってくださったんです」

諭は断ってから、続ける。

「12歳の幾子お嬢さんは小さくて大人しくて泣いてばかりの子ぉでしたよ。周りの人間にハリネズミみたいに針たてて、夜べそかきながら部屋でお母さんと電話してましたわ」

諭の語る昔話は本当のことなので困る。私は頬を熱くしながら、横に座る諭の袖を引っ張る。やめて、やめて。恥ずかしい過去を暴露しないでよ。

「俺のことも最初嫌いやったよな?」

話を振られ、私はムキになって答える。

「嫌いじゃなくて、人見知ってたの!」
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