猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
夜半、物音で目覚めた。三実さんが帰ってきたのだろうか。いつも気づかないくらい彼は静かに帰ってくる。
薄く目を開け、常夜灯の灯りを頼りに身体を起こす。三実さんのために有明行灯スタイルのランプをつけておくのだ。

襖が開いた。逆光で見えないけれど、背格好から三実さんだとわかった。
布団の上で膝をつき、上肢を起こした私は寝ぼけた頭で言う。

「三実さん、お帰りなさい」

三実さんは答えない。顔が見えない。目を擦り、彼の様子を窺おうと顔をあげる。
ざっと衣擦れの音がして、三実さんが室内に入ってきた。ぴしゃりと襖が閉まる。
膝をついた彼が私の肩を掴んだ。

「っ!?」

声をあげる暇もなかった。そのまま三実さんは私を布団に押し倒した。覆いかぶさってくる影。行灯の灯りでようやく彼の表情が見えた。

「三実さんッ!」

そこにいたのは私が恐れている獣だった。
三実さんの中にいる獣。いや、彼の本性。

「幾子、起きていたとは。驚かすことになったな」

三実さんはぎらぎらと光る瞳をしている。表情は夢中には見えない。冷静なくらいだ。

「な、なにを……」
「随分我慢しているし、二度目の機会をと思っただけだ」

やはり、その気なのだ。さっと血の気が引く思いだった。
両手を布団に杭打たれた状態で見上げる彼は、私を獰猛に見下ろしている。このまま補食される。
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