猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「嫉妬しなくて大丈夫です」

私はちょっと笑って、彼の不安を無くそうと答える。

「諭や父、京都の実家のことを考えていました」
「残念だが、すべて嫉妬対象だ。幾子は俺のこと以外考えなくていい」

すぱっと爽やかに答える彼だけど、目の中のぎらぎらは消えていない。困った人だわ。

「三実さんのことは一番に考えてます。でもたまに実家のことくらい思いだしますよ」
「ふるさとが恋しくなったか?」
「いえ、甘野の家はふるさとというわけではないですからね」

メインの鯛のソテーが運ばれてくる。糸かんむりみたいな飾りがついていて、バルサミコ酢の香りがする。魚用のナイフを手に切り分け口に運ぶと、柔らかな身がとても美味しい。

「幾子が望むなら、一度京都に里帰りしてもいいんだ」

私が半分食べ進むより早く三実さんの皿は空になる。そしてそんなことを言うのだ。

「親孝行してくればいい」
「父は私のことがあまり好きではないんです。だから、実家に戻っても邪魔なだけですよ」

私は苦笑いで答えた。

「両親は長く不仲でした。諭のお母さんの件もあったんでしょうけれど、もともと性格が不一致なんです。だから、母に似ていて母方で育った私のことはあまり好きじゃないんです」

後継者ではなくお嫁に出されたのもそうした理由だ。気づけばうつむいていた。駄目だ。暗くなってしまう。慌てて顔をあげる。

「でも、私は三実さんの元へお嫁にきましたし、家族は三実さんだと思っていますから」

にっこり笑って見せると、三実さんが呆然と「可愛い」と呟くのが聞こえた。それから、真顔になって言う。
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