猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「幾子、こちらを向いてごらん」

三実さんに呼ばれ、振り向くと、携帯電話で写真を撮る三実さん。
約束だからいいけど、本当に私の写真ばかり撮りたがるんだから。

「三実さんも海に入りませんか?」
「俺は幾子が波と遊ぶのを撮るのに忙しいんだ」

悪びれる風でもなく言うので、私は熱い砂浜をずかずかと歩き三実さんに近づいた。肩にかけた小さなバッグから自分の携帯電話を取り出すと、自撮りモードに変換する。

「はい、三実さん。こっち向いてください」

精一杯腕をのばすと、ふたりの顔が画面に入る。そこでシャッターを切った。

「俺は別にいいというのに」
「私が撮りたかったんです。三実さんとのツーショット」

にっこり笑って見上げると、そのまま抱き寄せられた。

「本当に幾子が可愛らしくて困る」
私からしたら三実さんも充分可愛いんだけれどなあと思いながら、私はその背に腕をまわした。
「駄目です。三実さん。足の裏、火傷しちゃいそう。海に入りたいです」
「おお、そうか」
「一緒に入りましょう」
散々誘ったら、革靴と靴下を脱いでくれた。
私たちは少しだけ波と戯れ、日差しに負けて車に戻った。

デートは楽しく、また近いうちに三実さんと出かけたいなと思う。恋愛期間がない私たち。夫婦になってからデートを重ねて仲良くなっていくのは、きっといい方法だ。
母から連絡がきていたのに気づいたのは、帰宅してからだった。

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