猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「はあ、全然終わんないわ。お母さん、私にもお茶」

母はどさっと君島のおじさんの隣に座り、お茶請けの豆大福を口に詰め込む。お嬢さん然としたところがまったくなく、あれこれ行動が雑なのが母だ。

「全部持って行かなくてもいいじゃない」
「向こうで買い直すのが嫌なのよ」
「そんなに要るか?」
「要るわよ!」

不機嫌に声を張り上げる母。君島のおじさんはにこにこ「そうだね」なんて頷いている。この優しくてスポンジみたいな人でなければ、母の隣にはいられないだろう。
しかし、苛烈な母でも私には大事なお母さん。

「幾子、あなたがいつ来てもいいように広めのアパートメントを選んだの」

豆大福をもぐもぐしながら母は言う。

「ひと回りも年上のお嫁に出されて本当に可哀想。親同士の決めた結婚なんて上手くいくわけないのよ」

盛大な文句は祖父母への当てつけに聞こえる。私の父との結婚はまさに家同士が決めた結婚だったものね。
慌てて私は答える。

「お母さん、私たち結構仲良くやってるのよ。三実さん、優しいし」
「はあ?そんなわけないわよ。どうせ幾子が我慢して成立してるんでしょう?あなたはおとなしくていい子だから」

皮肉ではない。母はおとなしく従順な私を育てやすい子だと思ってきた。だけど、そういう性格になったのは、母が激しめな性格で周囲と軋轢を生みやすい人だったからだ。当人はきっとそんなことは考えもしないのだろう。

「全然我慢してないよ」

どっちかというと、三実さんに我慢を強いている。別な意味で。
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