猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「婚約が破断になったとき、彼女のお腹には赤ん坊がいたんですって。だけど、あの男はお腹の子どもごと婚約者を家から追い出したらしいのよ。そして彼女はひとりで子どもを育ててきた……」
「琴子ちゃん詳しいね。どうやって調べたの」
「その元婚約者、知り合いの知り合いの知り合いくらいなの。ずっと関西でアパレル関係の仕事についてたそうだけど、ちょっと前から東京に来てるって」

母はつい先日までミセス向けのセレクトショップを経営していた。そちらの筋からの情報かもしれない。

「幾子、あなたの夫は、以前婚約者にひどいことをした男なのよ。さらに、隠し子までいる。今後、その元婚約者が訴えれば、その隠し子に養育費を払う可能性だって出てくる」
「お母さん」
「そんな男と一緒にいる意味ある?あなたまでひどい目に遭うのが心配なのよ」

三実さんの話とは思えない。俄かには信じがたい。
だけど、母の言うことが百パーセントでたらめではなさそうなのもわかる。少なくとも婚約者がいたのは事実なのだから。

「甘野さん側の都合もある。おまえが焚き付けんでいい。幾子の考える通りにすればいいさ」

祖父が助け船を出してくれ、祖母が横から言った。

「そうよ。もし、琴子の言う通りなら幾子はいつこの家に逃げてきたっていいんだからね」
「駄目よ、そういう時はすぐにイタリアまで飛びなさい。あの男が連れ戻しにこないところまで逃げなきゃ」

鼻息荒く言う母をなだめる君島のおじさん。私は曖昧に笑い、沈鬱な気持ちで帰宅することとなった。
そんな話聞きたくなかった。娘への気遣いにしても乱暴じゃないかしら。

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