猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
祖父母の家からの帰り道、最寄り駅までの住宅地を歩きながら考える。

三実さんに婚約者がいた。
それはわかっていた。
随分前のことだとも聞いている。三実さん本人がそのことについて語らない以上、私から聞くことはしたくない。

三実さんがその婚約者を追いだしたというのも、きっと噂の範囲だろう。三実さんは変わっているけれど、けして冷淡な人ではない。

ただ隠し子というワードが引っかかる。
婚約が破断になったのは事実であり、元婚約者に子どもがいるらしいのも事実。

三実さんとその女性がどんな経緯で別れたのか、子どもの父親は三実さんなのか……そのあたりは当人たちに聞かないとわからないことだ。

「考えるのやめよ」

ひとりごちる。悩んだところで誰も答えを持っていないのだからやめたほうがいい。私は、自分の夫を信じればいいだけだ。その婚約者とはこの先会う予定もないのだし。
もやもやを押し込め深呼吸すると改札をくぐった。金剛邸へ帰るために。



離れに帰宅したのは15時過ぎだった。
今日は仕事がお休みなので、このままさっと離れを掃除して、また植松さんのところに行ってみようかなと考える。まだ日は高いけれど、夕方には植松さんは鶏たちを鶏舎に戻すのだ。それを手伝いに行こう。

「奥様」

声をかけられ振り向くと、甲本さんがいる。
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