猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
夕食後、お風呂は母屋でもらうと母子は客間に戻っていった。なんでも、婚約時代は母屋で同居していたので、そちらのお風呂の方が離れのものより使いやすいと知っているそうだ。
どこまでもマウンティングをしてくる。

どっと疲れ、膳の下げられたダイニングテーブルに突っ伏した。
なんなんだろう、あの人。世界の中心が自分だと思ってるみたい。
私の母も我儘で自分中心の人だったけれど、あんなふうに無暗に他人を攻撃する人じゃない。自分の利益のために、他人を丸め込もうとなんてしない。

なんで三実さんはあんな人と婚約までしていたんだろう。
……そう、そこが一番胸の痛むポイント。

三実さんと志信さんは婚約関係にあった。
三実さんは彼女を愛していた時期があったのだ。私に対するみたいにプレゼントを贈ったりしたのだろうか。
可愛い愛してると連呼し、情熱的に迫ったことがあるのだろうか。
ふたりの間に流れた時間は八年以上前のことで、私には伺い知ることもできない。

今は私を愛してくれている。それはわかる。
でも、過去彼女を愛していたことに嫉妬の感情みたいなものを覚える。嫉妬……私は過去の志信さんに嫉妬しているのだろうか。そして今感じるこの不安感はなんだろう。

三実さんの妻という立場が脅かされそうになっている。
だって、志信さんは彼との間に子どもが……。

「幾子」

名を呼ばれ顔をあげる。そこには仕事からまさに帰ってきたばかりの三実さんがいた。
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