聖なる夜の天使
靴を履き替えながら言う真琴に、「僕は初めて。うまく滑れるかな?」と巳冬は訊ねる。

「大丈夫!コツを掴めば簡単だから!!」

真琴は巳冬の手を引き、氷の上に足を置く。巳冬は「わっ!」と驚いて真琴の肩を掴んだ。

「思ったより滑るね」

こんな上でジャンプをしたりくるくる回るスケート選手を巳冬は不思議に思えた。

「巳冬、肩痛い」

真琴はそう言い、巳冬の手をギュッとつなぐ。

「ゆっくり滑ろう」

真琴がリードし、巳冬はゆっくりと足を動かしていく。最初は何度も転びそうになったが、真琴のリードが上手なためかあっという間に慣れていった。

「うまいじゃん!」

巳冬が滑れるようになると、真琴は自分のことのようにはしゃぐ。巳冬は嬉しくてたまらない。こうして、真琴や誰かと笑っている間は、自分が人と違うことを忘れられる。あの言葉さえ、なければーーー。

「ママ、どうしてあの人は真っ白な髪なの?」

「シッ!見ちゃダメよ」

ズキン、と巳冬の胸が痛む。目線を横にずらせば、「何あの人」と言いたげな視線が集まっている。巳冬はうつむいてしまった。
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