極上パイロットが愛妻にご所望です

　それでも桜宮さんの姿を見られるなんてツイていると、胸をドキドキさせたとき、背後から私を呼ぶ声がした。

「砂羽っ！」

　休憩にやってきた比呂だ。

　私はにっこり笑って振り返る。

　比呂へ視線を向ける前に、通り過ぎた桜宮さんが振り返るのが目に入った。涼しげな目を少し大きくして、私のほうへ向けている。
　
　黒い瞳と目が合った瞬間、私の心臓は大きくドクンと跳ねた。慌てて頭を下げ、桜宮さんをポカンと見ている比呂へ意識を持っていく。
　
　彼と目が合っていた時間はスローモーションのように思えたが、実際は数秒のことで、桜宮さんは前を向き、機長と共に去っていく。

「比呂、お疲れさま」

　不思議そうに桜宮さんを見送っていた比呂は、我に返ったように肩を揺らし、目を瞬かせながら私のほうへ意識を戻す。

「お疲れさま。ねえねえ。桜宮さん、振り返って砂羽を見ていなかった？」

　そう言ってから、私の隣に立つ住田くんにも「お疲れさま」と比呂は口にする。

　私も比呂の隣にいる新人の畑中(はたけなか)さんに言葉をかけてから、否定する。