極上パイロットが愛妻にご所望です
 成田国際空港に向かう途中、首都高で事故渋滞があり、到着したのは出発の四十分前。チェックインカウンターが混んでいたらどうしようと、気が急いてしまう私だけど、朝陽はのんびりしている。

「普段、落ち着いて搭乗客をさばいているのに、自分となると砂羽はせっかちになるんだな」

「もうっ、私はギリギリに行ったら、グランドスタッフに申し訳ないと思って」

 エコノミーとビジネスのパネルのほうへ歩を進める私に、朝陽は待ったをかける。

 ちなみに朝陽はなぜかキャリーケースがふたつあり、私の分を入れると三つになるので、カートを押している。

 振り返った私に朝陽は、ファーストクラスのカウンターへ続く出入口を顎でクイッと示す。

「えっ……」

「砂羽、俺を誰だと思ってる?」

 それはAANの御曹司です……。わかってはいるけど、私の頭はせめてビジネスクラスだと考えていたのだ。

「ファーストクラスだなんて、もったいないよ。後で精算してもらおうと思っているのに……」

 私の給料で払えるわけがない。

「は? 精算? ふざけるな。いいから。ほら、こっち」

 一笑に付した朝陽はカートを押して誰も並んでいないファーストクラスのチェックインカウンターへ進んだ。

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