極上パイロットが愛妻にご所望です
 いつもは遠巻きにしか桜宮さんの姿を拝めなかった。

 今日は初めて、彼がコーパイを務める旅客機に携わることができたのだ。
 
 正直言って、自分が印象に残ってほしいのかわからない。ううん。忘れてほしい。きっと私のことなんか、過ぎ去った途端、きれいさっぱり頭から消えているはず。

 そう思えば、今度は話しかけてほしいなんて淡い期待をせずに済むから。

「そうよ。食堂前でも振り返って砂羽を見ていたし、それから二時間も経たないうちに、ゲートで立ち止まってまで見たんでしょ?」

「……私、無意識のうちに、気に障ることをしちゃっていたのかな?」

 気づかずに足を踏むとか……。いや、そんなことはない。桜宮さんがいたらすぐにわかる。

 アホすぎる考えを追いはらおうと、うどんのスープをゴクンと飲む。

「ともあれ、今度会ったら今日のことを聞いてみれば?」

「ええっ? 話しかけられるわけないじゃない」

 比呂の無茶ぶりに、思いっきり頭をふるふると振って否定した。

「確かに……そうだよね。桜宮さんは誰もが憧れる王子さまだしね」

「間近で顔を見られたから、得したかな。それだけでいいの」

 桜宮さんは到底手の届かない人で、私とはアイドルとファンくらいの距離があるのだから。

 その後、店を出た私たちは、抹茶ソフトクリームがのったあんみつを食べて満足したところで家路についた。

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