極上パイロットが愛妻にご所望です
「キャベツの千切りもたっぷりあるし、卵焼きもきれいに焼けたわ」

 鍋の中の味噌煮込みうどんもトロッとしていい感じだ。

 ローテーブルに食事の準備をしていると、インターホンが鳴った。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 上質なカシミアのチェスターコートを着たままの朝陽は冷気をまとっていて、抱きつくと冷たくてブルッと震えがきた。

「うまそうなにおいがする」

 おでこにキスが落とされ、私を離した朝陽はコートを脱ぐ。脱いだコートを受け取ってハンガーを通し、鴨居にかけていると、背後から腰に腕が回った。

「新婚みたいだな」

 低音でベルベットみたいな滑らかな声が耳をくすぐる。

「……洗面所で手を洗ってきて」

 急にふたりだけが恥ずかしくなって、何気なさを装いながら、キッチンへ歩を進める。クッと喉の奥で笑った朝陽は、玄関横の洗面所へ向かう。身長のある朝陽が部屋にいると、とても狭く感じられ、意識してしまう。

 結婚を誓い合った仲だと言うのに、いまだに心臓がバクバクと暴れだしてくるから困る。

 朝陽が手を洗っている間に、胸の高鳴りを抑えるように食べ物のことだけを考え、残りの支度を済ませようとガスレンジの前へ立つ。

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