極上パイロットが愛妻にご所望です
 洗面所から出ると、急いでクローゼットから服を出し、黒色のブラウスとサックスブルー色のペプラムスカートを身につける。その上から、四月の中旬にふさわしいブラウンの春コートを羽織った。

「これでよしっ!」

 ショルダーバッグを手にして、ワンルームマンションを後にした。
 
 私の住まいは羽田国際空港がある大田区。

 最寄り駅まで徒歩十分、空港までは電車で二十分ほどだけど、早朝のこの時間ではまだ電車は動いておらず、空港で勤務する者のために、最寄り駅から会社の運行バスが出ている。
 
 自販機で缶コーヒーを買ってバスの出発五分前に乗り込む。先に乗車していた数人の顔見知りの空港職員に会釈すると、真ん中辺りのいつもの窓席に腰を下ろした。
 
 まだ外は日の出前で薄暗い。走りだしたバスの揺れが気持ちいいが、ウトウトとまどろんでもいられない。十五分ほどで職場に着いてしまう。
 
 寝ないように缶コーヒーを飲みながらスマホを弄っている間に、AANの空港事務所にバスが到着する。

 降りた私は社屋に入り、グランドスタッフ専用の更衣室へ向かった。

「おはよう! 砂羽!」

 先に来て制服に着替えていた同僚の小西(こにし)比呂(ひろ)が、私にニコッと笑いかける。
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