極上パイロットが愛妻にご所望です
 私は腕時計で始業時間の十分前を確認し、スカーフを巻く手を速めて支度を終わらせ、比呂と共に更衣室を出てブリーフィングルームへ向かった。
 
 ブリーフィングルームではスーパーバイザー、通称SVの日向(ひゅうが)真由美(まゆみ)主任の周りに、今年入社の初々しい新人が六人いた。中には男性もいる。

 SVとは、グランドスタッフの人員配置の調整や、整備や運航を管理する者と連携し、空港運営に支障をきたさないようにする旅客業務全般の責任者である。

  立ったまま日向主任はタブレットを確認しながら、配置を指示していく。

「水樹さん、あなたには住田(すみだ)くんのインストラクターをやってもらうわ」

 私は「ええっ?」と目を見開く。

 入社五年目の比呂がインストラクターになるのは当たり前だが、私はまだこの会社に入って一年も経っていない。

「そんなに驚くことはないでしょう? あなたはスタッフの中でも優秀なんだから。住田くんを頼みます」

 日向主任の横にいた住田くんは私のほうへ一歩進み、「住田利樹(としき)です。よろしくお願いします」と元気に自己紹介して頭を下げる。

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