極上パイロットが愛妻にご所望です
 静かに近づくつもりが、久美と会ったときとは違う七センチのベージュのハイヒールが、思ったよりカツカツと足音が出てしまった。その音に気づいた桜宮さんは閉じた目を開け、組んでいた腕を解いた。

 桜宮さんはチャコールグレーのスーツ姿だった。

「すみません。お待たせしました」

 モデルのようにカッコいい彼を前にしてドキドキと心臓が高鳴り、声が若干震えていた。

 気づかれませんように。

 桜宮さんはフッと口元を緩ませ、助手席のドアを開ける。

 やっぱり声が震えているのはバレているよう。

「ほんの少し前に着いたから、待っていないよ。乗って。食事は?」

「まだ……です」

 開かれたドアに歩を進め、助手席に乗り込むと、外から静かに閉められる。

 桜宮さんが運転席に戻ってくるまでに、深呼吸をして暴れる鼓動を落ち着かせたいけど、前を回ってくる彼の姿に目が離せなくて、呼吸をするのも忘れて見入ってしまった。

 運転席に身軽に座った桜宮さんはエンジンをかけ、車を発進させる。

「夕食のリクエストは?」

「特に……ないです」

「そう? 気兼ねなく言ってほしいな」

 ちょうど暗くなる前で、道路は二台がすれ違うギリギリの幅。歩道がないから彼は注意深く進ませている。

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