極上パイロットが愛妻にご所望です
「では、イタリアン以外でお願いします」

「イタリアンは苦手なの?」

 意外だというように、涼しげな目を私へ向ける。

「いえ、ランチに食べたばかりなので」

「そういうことか。OK。じゃあ、俺が食べたいものにするよ?」

「はい。あ……」

 やんでいた雨が再び降りだし、フロントガラスをポツポツ濡(ぬ)らしていく。

「あ?」

 前を見ながら運転している桜宮さんの不思議そうな声が聞こえてくる。

「雨がまた降りだしたなって」

「梅雨だから仕方ないな。十分ほどで着くから」

「はい。あの、メッセージを返信していなくてごめんなさい」

 私は身体を運転席のほうへ向けて頭を下げる。

「正直、へこんだな」

「ええっ!?」

 彼がへこむところなんて、想像ができないから突拍子のない声が出てしまった。

「俺だってへこむさ。返信待っていたんだけど?」

「で、でも、勤務予定が送られてきただけなので、なんて返信をすればいいのか困ったんです」

「俺の休日は砂羽のものだってわかってもらうように送ったんだ」

 きゅ、休日は私のもの……?

 直球な物言いに、どんな反応をすればいいのか戸惑う。車内が暑く感じられて、額がじんわり汗ばむ。

「そ、そんなの、わかりませんっ」

< 86 / 276 >

この作品をシェア

pagetop